第131話 ロミジュリの思惑

 今日の5時間目6時間目はぶっ通しでホームルーム活動だ。


「文化祭実行委員やる人ー」


 今年も文化祭シーズンか。


 てか、高梨とガッツリ目が合っている。押し付ける気満々だな。


「あかね、実行委員とか好きそうじゃん。やんねーの?」


「やらんわ、そんなめんどくさそーなもん」


 あかねがやらんのだったら、ややこしいことにならずに済みそうだな。なら、まあいいか。


「叶、一緒にやろーぜ。文化祭実行委員」


「まあ、いいけど」


「高梨、俺と叶決定ねー」


 これで、どうせまた高梨が充里と曽羽にも押し付けて4人決定だろ。


「え、比嘉さんが実行委員やるなら、僕も手を上げようかなあ。一緒に準備とかして、少しでも比嘉さんと仲良くなれるかもしれない。どうしよう、手を上げたいけど、みんなの前で僕がやります、って言いだしづらいなあ」


 ……振り向くと、美少年はクールなポーカーフェイスを決めている。早急に決めねば! 陰キャが勇気を出さないうちに!


「充里! 曽羽! やろーぜ! 今年はマザゴリに乗っ取られることなく文化祭をやってやろーぜ!」


「俺、乗っ取ったんじゃなく押し付けられたんだけど?!」


「おー、そうだな。やるか、曽羽ちゃん」


「うん、いいよー」


「はい、決定! 今年も俺ら4人がやります。よろしくお願いしまーす!」


 突然の呼びかけにも何人かがよろしくお願いしまーす、と答えてくれる。


「このクラスは本当にサクサク決まるのだけはいいわー」


 その他は不満だとでも言う気か、このカス教師。


 実行委員4人が前に出て、字のキレイな曽羽がチョークを握る。


「何かやりたいことがある人ー。去年はマザゴリオンステージだったから、今年は全員が同じように目立つのがいいんじゃねーかなあ」


 クラスメートに呼びかけといて自分の意見を言うのか、自由人。


「舞台発表とか?」


「劇とかだと、役者は目立つけど裏方は目立たねーじゃん」


「全員で役者やったらええやん」


「さすがに舞台がギューギューになるんじゃない?」


 まず充里が意見を出したのが良かったのか、みんな自由にしゃべりだした。こういうのって、シーンてなったらみんなで沈黙を守りにいくもんな。


「1日3公演にしたら全員役者できて舞台がギューギューにもならないんじゃね?」


「それいいー。さすが行村ー」


 もはや、このクラスの民衆を動かすのは行村だな。だがしかし、誤った方向へだ。


「2年1組だけ舞台3公演なんか通る訳ねーだろ」


「あー、そっか」


「軽音今マザゴリが部長だろ? 軽音楽部の枠もらえば2枠は確保できんじゃん」


「充里、天才!」


「俺はどこで歌えばいいんだよ!」


 知るか。適当に廊下で路上ライブでもやっとけ。


「教室でやればいいんじゃない? 去年も教室でも結構お客さん来てくれたし」


「おー、さすが比嘉さん」


「そっか、別に舞台借りなくても教室で劇やればいいんだ」


 叶のカリスマ性が民衆を正しく動かしたな。


 舞台になんか叶を立たせたら去年以上に注目を集めまたスカウトが来るだろうから、なんとか舞台を回避する方法を考えていたが、さすがは叶。自ら回避案を出すとは素晴らしい。


 よく、俳優同士が共演をきっかけに結婚したりするよな。演じるとは、役に入り込むことなり!


「よし、ラブロマンスものだ。どうせやるならキュンキュン系ラブストーリーをやろう」


「キャー、照れる~」


 女子は結構乗り気だな。男子も女子と公にイチャイチャできるとあっては反対する者などいるまい。


「何があんの? ラブロマンスものて」


 すぐ隣に立つ充里が聞いてくる。俺も大して知識ない。


「ロミジュリとか有名じゃね? ロミオとジュリエット」


「あー、あなたはどうしてロミオなの? ってヤツか」


 漫画の文化祭でもたびたびロミジュリってるから、きっとラブラブものなんだろう。


「じゃあ、ロミオとジュリエットを教室で3回公演に決定~。3人のジュリエット、誰がやる?」


「実来! 絶対実来がいい!」


 佐伯、たぶん俺と同じことを考えとるな。


「叶! 絶対叶!」


 俺も負けじと声を張る。


「うちもやりたいー」


 とあかねが手を上げる。


「関西弁のジュリエットかー。おもしれーかもな」


「なんでうちだけそんなコントみたいなんやねん! 普通に標準語でできるわ!」


「へえ、お前標準語しゃべれるんだ? こっち来てだいぶなんのにいつまで経っても関西弁って抜けへんねん~って言ってたのは嘘なんだ?」


 分かり切っとるけどな。2歳でこっち来てんだから、むしろ標準語しかマスターしてねーはずだわ。


「う……嘘ちゃうわ! うちの台本だけ関西弁で用意してや!」


「よし、きーまり! じゃあ、あかねの相方は長谷川な」


「え、僕? なんで?」


 ずーっと、


「比嘉さんがジュリエットなら、きっとロミオは入谷くんだろうなあ。いいなあ、僕もやりたいなあ。でも、ロミオじゃなくても同じグループになれれば接点はあるだろうし、一緒に文化祭を作り上げた思い出ができるだけでも嬉しい。どんな端役でもいいから、なんとしても比嘉さんと同じグループになろう!」


 ってブツブツ言ってるのを俺は聞き逃さなかった。みんながワイワイしゃべってても、俺長谷川の声なら聞き取れる自信がある! いらん特技、獲得!


「ジュリエットがコレだぞ? ロミオで見た目の華を補わねーと客なんか来ねえだろ。このペアは女子向けにする」


「ああ、なるほどねー」


 クラス中、総納得いただいたようだ。


「コレって何やねん! うちだって客呼べるわ!」


「曽羽ちゃん、阿波盛と長谷川で決定ねー」


「はーい」


 曽羽が超デカデカと泡盛・長谷川と黒板に書く。


「漢字がちゃう! それ沖縄の酒やないか! よく間違えられんねん!」


 キーキーうっせえな、あかねは。やっぱりコイツのジュリエットはコント路線で決まりだな。こんなヤツにラブロマンスは演じられ……そうだ、そうか。


 関西弁でも演者キュンキュンのラブストーリーはきっとできる! あかねと長谷川がくっつけば、万事解決だ!

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