第122話 ABO式血液型の遺伝

 ピーンポーンとインターホンが鳴っている。あれ、鍵開けてあるのに。


 孝寿じゃねーのかな、と玄関に行きドアを開けるとやっぱり孝寿だ。


「鍵かかってないだろ。勝手に入ってくればいいのに」


「鍵なんかいちいち確認するか! 出迎えろ、弟!」


 相変わらず暑いと機嫌わりーな、兄貴たちは。


「あっづー、ソファー……」


 横になりたいんだろうが、残念。ソファはすでに3人のホスト共が占領している。


「どけ! お前ら!」


 L型の方に長男の亮河が、I型の方に次男の慶斗と三男の悠真が仲良く並んでグダってるのを蹴り落して孝寿が寝転ぶ。


「ひっでー。お兄ちゃーん、孝寿が蹴ったー」


 子供か、慶斗。


 亮河は慶斗の方を見もせずに「そうかー、悪い子だなー、孝寿ー」と適当にあしらっている。


「20歳で暑さに弱くなってその後年取るにつれてひどくなるって訳でもねーんだな。四男の孝寿兄ちゃんが一番暑さに弱そう」


 亮河を下敷きで扇いでいた末っ子の廉が孝寿の方へ行き扇ぐ。


「ありがとー、廉」


 孝寿が目をつぶって気持ち良さそうに笑った。


「統基お兄ちゃんもあと3年くらいで仲間入りだね」


「嫌だわー。俺にはその遺伝入ってなきゃいいんだけどなー。兄弟っつってもさ、全部が全部遺伝する訳じゃねーからさ。兄弟だからって暑さに弱いのが出てくるとも限らねえからさ」


「分かりやすく説明的だな、統基」


 分かってんならいらんこと言わずに話合わせに来いよ、孝寿。


 俺は遺伝しているかどうかまだ分からないが、廉は確実に遺伝してない。俺の弟なのは絶対だけど、廉と俺たちは血の繋がりはない。廉に遺伝しようがない。


 俺も遺伝してて廉だけ何もないと、廉が疎外感を感じてしまうんじゃなかろーか。廉が20歳になる頃もこうやって集まってるかは分かんねーし、それまでに廉が俺たちと廉は父親が違うことに気付いてるかもしれないけど。


 まだ小学生の廉は気付いてないけど、よく考えれば分かることだからな。親父と花恋ママが出会った時、すでに俺たちは生まれてたんだから。


 廉は生後間もなかったし、5歳だったけど俺もあんまり記憶がないから気付いたら俺たちは普通に兄弟だった。


「あ、そうだ。忘れないうちに渡しとくわ。亮河兄ちゃんこれ、らんぜに渡しといて」


 津田から預けられた益子焼の湯飲みの箱を亮河に渡す。メッセンジャー、任務完了であります!


「何、コレ」


「らんぜの彼氏かっこ予定からのプレゼント」


「は?! 彼氏?!」


 あれ、らんぜから聞いてねえのかな。デカい体でソファに転がっていた亮河が起き上がった。


「あのアバズレに彼氏ー? らんぜに惚れるとかどんな小学生だよ」


「は?! 失礼なこと言うなよ、孝寿! 惚れる男子小学生もそりゃいるだろ!」


「男子高校生だよ」


「は?!」


 亮河のは?! がどんどんデカくなるな。


「心配しなくても何も起きねえよ。真面目な男だからさ、小学生と高校生じゃ付き合えねえから、10年後にまた告白するんだって。らんぜが10年も覚えてる訳ねえだろ」


 覚えててほしい気もするけど……俺は介入しないと決めた。らんぜが覚えているか忘れるかは神のみぞ知るが十中八九忘れるだろうな。


「そうか……そんな真面目な男なら、むしろ親としては安心なんだけどな」


 安心、か。親って安心したいものなのか。叶の親も俺なら安心だって言ってたもんな。


 亮河がバッグに湯飲みの箱を入れて、


「あ、そうだコレ、健康診断の結果来たよ」


 と白い封筒を慶斗と悠真に渡した。


「健康診断なんか受けてんの?! ホストって」


「今年から導入した。40代のキャストもいるし、親父もそろそろ健康に気を付けねえとヤバい年だしな」


「リョウだって30代だし、ケイもアラサーだもんな。おっさんー」


 悠真が笑ってるけど、お前もじきにアラサーなんだろーが。


「何笑ってんだよ、ユウが一番γガンマ値高いじゃん」


「ダッセー、酒よわ!」


「酒弱いから数値が高い訳じゃねーだろー」


 仲良いな、コイツら。ホスト共が健診結果を見ながらワイワイしてる。それを孝寿と俺と廉も覗き込んでるけど、全然分からん。あ、血液型だけは一目瞭然。


「あ、3人ともO型なんだ。俺もO型だわ」


「へー、俺もO型」


「僕も」


「全員O型なんだ。そういや、Oの遺伝子ってA型にもB型にも入ってる場合があるから生まれやすいんかね」


「何の話?」


「悠真兄ちゃんには理解不能だろうな。高校生物の話だよ」


「バカにすんなよ、覚えてはないけどな。俺もじきにアラサーだからしゃあねえわ」


 年のせいにしやがった。いいかげんなヤツめ。


「あら、みなさん、おはよう」


 母さんがまたネグリジェみたいなゆったりとしたワンピースのまま階段を下りて来た。


「おはよー」


 みんな口々にあいさつをする。


「ねえ、花恋は何型? 血液型」


 孝寿がソファにあぐらをかいて尋ねると、


「血液型? AB型よ」


 と母さんはリビングを突っ切って出て行く。シャワーかな。最近は寝汗をかくからって起きたら風呂に直行してるみたいだ。


 ……AB型?


「孝寿兄ちゃん、高校生物覚えてる? ABO式血液型の遺伝」


「俺はバッチリ覚えてますとも」


「おかしくね? 花恋ママがAB型なら、廉には絶対にAかBのどちらかが遺伝する。父親がO型でも、廉の遺伝子はAOかBOになって、A型かB型になるはずだ」


「その通り」


 だよな。O型になるのは、OOの組み合わせだけのはずだ。母親がA型でも遺伝子の組み合わせがAOならばO型の子供も生まれる。だがしかし、AB型の母親からは絶対にO型は生まれない。


 廉を見ると、首をかしげてキョトンと俺と孝寿を見ている。


「なのに、さっき廉はO型だって言った」


「と言うことは?」


「廉は、花恋ママの子供じゃない?!」


 何?! この急展開な新事実?!

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