第118話 見た目がチャラいのも個性

 修学旅行を満喫した俺たちを待っていたのは、定期テストであった。


 叶を無事3年生にするべく、専属ティーチャー俺は今回も奮闘し、見事欠点は現国のみとなった!


「頑張ったじゃん! けど、なんで国語はあんま変わんねーんだろうな。漢字で得点取ってるようなもんで、選択問題とか全滅なんだけど」


 叶の解答用紙をよくよく見ると、ひとつ気付いた。


「なあ、句読点込みで15文字で抜き出しなさいなのに、点とあが1マスに入っちゃってんだけど。何これ」


「マスが足りなかったからよ」


 いや、そんな何言ってるのよ、当たり前でしょな口調で言われましても。


「問題をお前の答えに合わせるんじゃねーよ! お前の答えを問題に合わせるの! この問題の答えは点と丸を含めて15文字ですよってこの問題が教えてくれてんだから無視すんな!」


「え! 問題が答えを教えてくれるなんてことがあるの?!」


「国語にはあるの! 15文字以内の1文を抜き出しなさいだったら、16文字以上丸がない文は答えにはなり得ないの!」


「じゃあ、15文字以内の文の中から答えを探せばいいってこと?」


「そういうこと」


 そうか、こう教えなきゃいけなかったのか! 俺が国語は得意なだけに、どう教えればいいのか分かんないんだよな。


「あ、そうだ。日曜日ヒマ?」


 唐突だな。そして小首をかしげて質問するクセがかわいいな、おい。


 マネして俺も首をかしげる。


「ヒマだよー。どっかお出かけするー?」


「ううんー、お出かけじゃなくてー、うちに来てー?」


「へ?」


 ラブラブ感溢れていた空気が止まった。


「え? なんで?」


「パパとママに修学旅行の話しててね、サルに遭遇した話をしたの」


 遭遇ってか、お前襲われてたけどな。


「そしたら、お礼がしたいからテストが終わったらお招きしてって言われてて。ケーキ好き?」


 え……お礼? サルを蹴飛ばしたから?

 完全にサル殺る気になってたけど、一応叶を守った形になるからか。


「彼氏だって言ったの?」


「言ってはない。けど、そうだろうなって感じはあるかなって感じ」


 ほう……これまでの俺ならば、どうにか回避しようとしただろう。だがしかし、今の俺は逃げずに何でもチャレンジしたい心境だ。何か行動しないと永遠にトラウマから解放されない気がして焦る。


 行ってやろうじゃねーか! いざ、比嘉家へ!


「統基?」


「行く! 日曜日だな!」


「ケーキ好き?」


「え、ケーキ? いや俺、あんま甘いの苦手」


「統基って食の好みのストライクゾーンが狭いよね」


「女のストライクゾーンもだよ。今まででクリアしてきた女はお前だけだよ」


「またー、本当に口から生まれてきたような人なんだから」


「そうやって冗談のノリで受け流すんじゃねえ。マジだっつの」


 叶がじーっと俺を見ている。完全に信用してねえな、この顔は。私を喜ばせようとしてるだけのサービストークでしょって感じか。


 しょうがねえ、俺の本気を見せてやる。野生のサルですら野生動物に出会った時の正しい対処法をする程の!


「マジで俺、人生で好きになった女はお前だけだ。たぶん、これからも」


 おふざけゼロで目付きが悪いと言われることをも恐れず真顔で伝える。さすがに、叶の表情が変わる。


「え? 本当に元カノとかいないの?」


「いない。いると思ってたのかよ。そういや聞かれたことなかったな」


 俺も叶に元彼がいるのか聞いたことないけど、小3から対象を追いかけてたんならきっといないだろう。


「覚えていられないくらいいるのかと思ってわざわざ聞かなかったわ」


「それ充里だろ。え、お前元彼とかいるの?」


「いない」


「だよね」


「でも統基、なんか、初めての彼女にしては手馴れてるような?」


 どういう意味? 変な汗かきそうな言い回しすんのやめてくれる?


「女友達は多かったから女とも遊ぶのには慣れてたよ。それより何より、初めての彼女どころか俺の人生で初めて好きになったのがお前だよ」


「本当に?」


 って口では言いながら顔は嘘ばっかり、って言ってんだけど。


「本当に。俺の初恋をお前に捧ぐ」


「いい感じにチャラくなったわね」


「何だろうね? 頑なにまとわりつくチャラ感」


 本当のことしか言ってないのになー。何なんだ。やっぱり普通に家庭環境の問題か。


「大半は見た目でしょ。あと、しゃべり方」


 見た目か。ギャルの多いこの学校で、きちんとブラウスをひざ丈のスカートにインして黒髪の叶を改めて見る。キレイな顔も相まって、いいとこのお嬢さん感を醸し出しとんな。普通の家の子だけど。


 対して俺は、赤いTシャツの上からワイシャツをはおってボタン全開。今日は暑いから……とは言え、野良犬感出てそうだな。家には金ならあるのに品の良さは皆無だわ。くせっ毛がうねりまくる明るい茶髪の頭をかく。


 これでお堅い叶の親には会えねーな。髪、染めるか。


「でも、見た目も言うこともチャラいのが統基だよ」


 ……あ、なんか胸にグッときた。


 何、今の超かわいい笑顔。そんな笑顔でそんなこと言われたら、叶の親に会うために見た目繕おうとするなんてすげーダサく感じる。


「決めた! 俺、あえてこのままで行く!」


「このままって?」


「黒髪にしない、ピアス取らない。いい?」


「え? 黒髪にしてピアス取るつもりだったの? どうして?」


 あ。俺ダセーヤツになる。


「もう、おもしろいヤツだなあ、叶。俺そんなこと言ってねーよ?」


「……そうかしら?」


「キャー! 寝返り成功!」


 まだ教室に残っていた女子たちが一斉に歓声を上げた。なんだ?


 優夏と目が合う。


「入谷も見てよ! 那波の子供が初寝返りしたの!」


「寝返り? 子供が寝返るの? 裏切りもんじゃん、ヤバくね? え! てか、那波の子供生まれてたの?!」


 優夏のスマホを見ると、仰向けで足を交差した南紗よりも小さそうな赤ちゃんがくるっとうつ伏せになった。


「ね?!」


 え、今のが寝返り? あ、ひっくり返るってこと?


 優夏のスマホには、他にも那波の子供の画像がたくさん送られている。孝寿といい、親になると人は写真を撮りまくるのか。


 あー……同級生が親になるなんて信じられなかったけど、本当に親になったんだ。那波も、真鍋も。


 天音さんの子供は、いつ生まれるんだろう。俺はそんなことすら知らないのに、まだ胸のモヤモヤはスッキリとは晴れない。どうあれ俺の子供ではないって納得はした。でも、自分がしたことの後悔が残ってる。いつかはこの後悔もリセットできんのかな――

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