第119話 彼女の親に会うのは異常に緊張する
ついに来た、日曜日!
一応、清潔感のある白地Tシャツにシンプルにデニムを履いてみた。白地にカラフルなルービックキューブがデッカくプリントされてるのが不安材料ではあるけど、持ってる服でこれが1番よそ行き感がある。
素で行くとか言っときながら、やっぱり第一印象は良くしたい。1番ダセーかもしんないな、俺。
下からピーンポーンとチャイムが鳴っているのが聞こえる。廉は遊びに行ったし親父と母さんはラスベガスだ。また上がって来なくていいように、スマホを手に取って階段を下りて玄関へ向かう。
ちょっとくらい大人しく待てねーのか。ピンポンピンポン連打しやがるいかれぽんちさんは誰だ。
「はい」
イラッとしながらドアを開けたら、立っていたのはひもの細いキャミソールにスリットまで入ったミニスカートでガリガリに細い手足を存分に出したらんぜだ。
「なんだ、お前かよ。廉ならいねーぞ。俺も出かけるから帰れ帰れ」
「クソガキにも廉にも今日は用事はないわ。これ、津田さんに」
らんぜが小ぶりな箱を差し出してくる。津田に?
「何、これ?」
「絶対に開けないでよ! 絶対に開けずに、津田さんに渡して」
受け取らない俺の手に無理やり載せてくる。サイズの割にはどっしりしてるな。
「何なのかくらい教えろよ」
「クソガキに教える必要はないわ」
「それが人に物を頼む態度か、メスガキが」
らんぜが俺をぶしつけにジロジロ見る。
「今日は随分まともな服装してるのね」
「前はまともじゃなかったのかよ」
ファンキーなカッコだとは認めるが。
仕方ないから箱を靴箱の上に置いて津田に渡すと約束し、らんぜを追い返して鍵をかけて俺も家を出る。
あー、緊張してきたな!
叶の家には入ったことがあるけど、叶の親はそれを知らないから一応叶の家の近くのコンビニで待ち合わせをして一緒に行くことにした。決して、インターホンをピンポンする勇気が出る気がしなかった訳ではない。
あー、緊張する。彼女の親に会うのってこんな緊張すんのか。
てか別に彼氏としてあいさつに行く訳でもなく、単にクラスメートとしてお礼を言われに行くだけだ。こんな緊張する必要なんかないって分かってるんだけど、緊張するもんは仕方ない。
コンビニに行くと、もう店の前に叶が立っている。
……なんか、そんな清楚な白いワンピースなんか着てられると余計な彼氏感が出る気がするんだけど。え、どっち? 俺クラスメートとしてでいいんだよな? 彼氏としてご両親にごあいさつするんじゃねーよな?
「えらいかわいい服着てんな」
「そう? ママがこれを着なさいって昨日買って来たの」
「どうしたの? 今日はまともな格好なのね」
どいつもこいつも、俺は普段まともな格好をしていなかったのか? まともなつもりで着てたんだけど。
あー、いざ叶の顔見たら更に緊張してきた。もしかして、お礼を言いたいなんて叶に俺を連れて来させる口実で、実際には俺のことシメるつもりじゃないだろーか。
あー、叶の家のシーサーだ。相変わらずかっけーなあ。
「うし! 行こう! 変に間を置かずポンポン行こう! ポンポンポーン!」
必死にテンションを上げる。叶が笑って玄関のドアを開ける。その後ろから、叶の家の中を覗く。
ネコのように鋭くて大きな目が印象的な美人さんと目が合った。うわ! びっくりした! いきなりいるとは思わんかった!
一瞬驚いた顔で俺を見たけど、すぐにおっとりと笑って
「あなたが……叶ちゃんの」
と、すっげーゆっくりしゃべる。顔は叶によく似てるけど、スピード感は曽羽に似てる。早口の叶とスローな曽羽は話合うのかと思ったものだが、母親で慣れてたのか。叶ママが10文字ほどしゃべってる間に俺これだけ思考がはかどっちゃうんだけど。
「クラスメートの、入谷 統基です。はじめまして!」
ハキハキと元気良くあいさつをしておじぎをする。声を聞きつけたのか、前に叶といるところを盗み見た叶パパも奥から出て来た。相変わらずダンスボーカルグループでセンターで歌ってそうなイケメンだ。
「はじめまして! クラスメートの、入谷 統基です!」
叶パパにもぺっこりとおじぎをする。
「あはは、そんな力込めなくて大丈夫だよ。さあ、上がって上がって」
意外なほどににこやかに俺を招き入れてくれる。
へ? こんな感じ?
えらい拍子抜けだわ。もっと、厳格な態度で来られるかと思ってた。
俺を彼氏だなんて思ってねえのかな? 本当に単に叶を助けたクラスメートにお礼がしたかっただけかな?
ちょっと気が楽になった。ド緊張と気が楽になったのとで、変な感じだわ。
「えーと、入谷くん?」
「はい! 入谷 統基です!」
「修学旅行では叶を守ってくれたようで、ありがとうね」
「はい! 叶を襲うなんてあのサル殺ってやろうと思って! あ、何言ってんだ、俺」
あれ? 緊張のせいか、心の声が心のフィルターを通さずに出てしまった。
「え?」
「いや、ケガさせなくて良かったです!」
「叶ちゃんは、昔から動物に好かれるからー。サルも叶ちゃんと遊びたかったのね」
「好かれてるってか、襲われてたけど! さすが叶ママ、ポジティヴ! あ、また出た」
やべーな、これ。自分でも何言い出すか分かんねーぞ、これ。
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