第92話 兄貴たちから高校生への助言
「いえーい! 統基の子供もクズの同級生〜」
「マジでやめてくれる?! 茶化すとこじゃねーだろ!」
廉には兄貴達が来ることは言わずに、遊びに行ってもらった。俺が兄貴達を呼び出したのなんて初めてだな。
昼間っから酒飲みながら俺の話を聞いてたけど、孝寿はもう酔ってんのか? いや、酔ってなくてもコイツなら同じリアクションするな。
「メッセージのグループ作っちゃう? 子供が同級生のパパ同士さー。めでたいじゃん、兄弟6人の内なんと半数の3人が新たな家族を迎えるなんてー。リョウとユウも作れば? 今からじゃ間に合わねえかなあ」
めでたいのはお前の頭だけだ、慶斗!
「俺の話聞いてた? 俺の子供かもしれないだけなの。しかも否定されてんの。絶対に俺の子供じゃないって。なあ、分かるもんなの? 母親って」
「何が?」
「マジで話聞いて、悠真兄ちゃん! 学校でこんな話できねーし、悲しいことにお前らくらいにしか相談できねーんだよ、俺。誰の子供かだよ」
「ユウも話聞いてねーんだろうけど、お前の話し方が分かりにくいよ、統基。動揺してるのは分かるけど落ち着けよ」
え? 俺もう落ち着いてるつもりだったけど、事の顛末を話してる間にまた心臓バクバクしてきたかも。
「統基は子供の父親かもしれない心当たりがあるのは確実で、他にも父親候補がいる場合に母親は腹の中の子供がどちらの子供か分かるか否かって話だろ」
「そう! 亮河兄ちゃんの言った通り!」
「分かる訳ねーじゃん。俺上の子の時も妊婦健診について行ってたけど、腹の中の子供が男か女かすら医者に診てもらって教えてもらわねーと分かんねーんだぞ。DNA鑑定が必要なことが母親だからって分かる訳ねーだろ」
孝寿は呆れ顔だ。そんなに分かる訳ねーことを聞いたのか? 俺は。じゃあやっぱり、天音さんが嘘を……。
「母親だからって何でも分かりゃあ産後うつなんかねえんだよ。初めての子供だから分かんねーのは仕方ねえけど、母親なんだからってのは母親を追い詰める禁句なんだ。分からない、できない私は母親失格だとまで思っちゃうんだから。父親だって親なのにどうして母親だけが分かって当たり前で父親は分からなくても許されるの? ってキレられるぞ、統基」
キレられたんだな、孝寿。ご高説はありがたいんだけどさ、将来のために覚えておこうとは思うんだけどさ、今はそんな段階じゃねーんだよ! どいつもこいつも俺の話聞いてねえ!
「初めての子供かー。俺も19くらいの頃だったかなー。子供ができたって言われて、びっくりしたもんだよ」
「で、逃げたんだよな、ケイ。俺、当時まだ高校生だったけど、大騒ぎになってたの覚えてるわ」
は? どんだけクズ伝説持ってんだ、慶斗は。思わず睨んだ俺とは逆に孝寿は楽しそうに話を聞いてる。
「おもしれー。さすがは慶斗兄ちゃん。結局捕まったの? 誰に?」
「相手の父親がどう調べたのか北海道まで追いかけてきてさ」
「北海道まで逃げたの?!」
鹿児島だの北海道だの、どこまで逃げるんだ、コイツは!
「網走で捕まえたって一報を聞いた時には何やったんだって騒然となったわ」
「何やったのー? 慶斗兄ちゃんー」
「それは聞くなよ、孝寿ー」
何を肩ぶつけ合ってほのぼのしてやがんだ。何っもほのぼのじゃねーわ。
「お前達はすぐ脱線するー。統基の悩みを聞いてやれよ」
「ありがとう! 亮河兄ちゃん!」
「って言ってもどうしようもねえけどな。本人に統基の子供じゃないって言われた上に、携帯着拒されてんだろ?」
「多分。やっぱり気になって1回かけてみたら話し中で、それから何回かけても話し中だから」
俺は天音さんの家も学校も全然知らないから、連絡手段は携帯しかねえ。メッセージ送っても既読にもなんねーし。
「へー、優しいじゃん。俺のスマホ、着拒したらデフォルトでお客様の都合でお繋ぎできません、って流れるよ。統基が傷つかねーようにわざわざ設定変えてくれたんだ」
「え……?」
この期に及んでまだ、俺のために……?
「逃がした魚は大きかったんじゃねえのー。いい女じゃん」
「統基は連絡取ってどうするつもりだったんだよ」
「俺は白黒付けたいんだよ。天音さん、やっぱり嘘ついてたってことだろ? 俺の子供かもしれないのに、蚊帳の外にされるのは違くない?」
「白黒つけて、どうすんの。はい、統基の子供でした、さあどうする?」
さあどうする?
どうもこうも……何も言えねえ。何も出てこない。俺に迫る孝寿の肩に亮河が手を置いた。
「意地悪言うなよ、孝寿。統基だってどうしたらいいのか分かんないんだよ」
「そうだよ、孝寿。考えてもみろよ、本命彼女と旅行して楽しい思いした翌日に他の女の妊娠を知らされるとか、マジで天国から地獄じゃん」
珍しく慶斗が俺に寄り添ってくれてる……初めて慶斗を兄と認めてもいいと思える。
「まさに天国から地獄なのは分かるよ。けど、それも自業自得じゃん」
「お! 地獄と自得で韻踏んでね? まさに天国から地獄〜、けど自業自得〜」
やっぱり、お前なんかが兄だなんて恥でしかねーわ!
「いえーい、天国から地獄〜、けど自業自得〜」
浮かれとるな、同級生パパふたり!
ダメだ、コイツら。自分が幸せだからって俺のことなんか考えてくれない。
「俺は、俺の子供ならちゃんと責任取りたいんだよ。天音さんにだけ背負わせるなんて、嫌なんだよ」
俺は男としてあるべきことを言ったつもりなのに、亮河が仕方ないなコイツは、とでも言いたげに俺を見た。
「俺はその天音さんの言った通りだと思うよ。大人が分別のつかない子供を誘惑した結果、妊娠した。お前は未成年だし高校生だ。女であっても、大人が責任を取るべきだよ」
「俺はそこまで子供じゃない。廉じゃねーんだから」
兄貴達がみんなして仕方ないな、な顔になった。……何だよ?
「統基は廉の面倒見てきたからか、年の割には言動が大人びてるとこあるとは思うよ。でも、お前も子供だよ」
亮河……どこがだよ。俺のどこが子供なんだよ。
亮河を睨む俺に気付いた慶斗が口を開いた。
「蚊帳の外にしてくれたことに感謝するべきだろ。逆に蚊帳の中に入れられて統基に何ができんの。オーナーに言えば金を渡すくらいはできるだろうけど」
「金とかじゃなくて……必要なら、親父に相談もするかもしれない。けど、そうじゃなくて」
「結婚して一緒に子育てすんの?」
悠真まで呆れた顔をしている。何も考えてないからだろうか、言うことは実現不可能なことだ。
「16歳のガキには無理だねー。ガキがガキ作るなんて不相応なんだよ。お前にできるのは自分の軽率な行動を反省して繰り返さないことくらいだ。今回は相手が大人だったから良かったようなものの、比嘉さんだったらって考えてもみろよ」
孝寿は言うことが厳しいな……叶だったら……どうしてたんだろう、俺。やっぱり何も浮かばない。
「マジでラッキーだったよな、統基。俺、北海道から連れ戻されてそのまま入籍だったよ」
「え、マジで?」
「マジで」
「孝寿の言う通り、深く反省して繰り返さないことだな。後は忘れろ。天音さんだっけ、その人は統基の子供じゃないって言ってるんだから、違うんだよ。答えの出ないことを延々悩んだって仕方ねえ」
反省して、繰り返さず、忘れる。
それしかないのかもしれないな……。
「そうだな、だいぶ気持ちの整理がついた気がする。ありがとう、兄ちゃん達。俺もっと叱られるかと思ったけど、思い切って話して良かったよ」
「この中でお前のことを叱れるのなんて孝寿くらいだよ」
と慶斗が笑った。……そう言えばそうだ。亮河はデキ婚だし、慶斗は逃げてるし、悠真は全部嫁任せだし。
相談相手を間違えたのかもしれない。
「でも、孝寿もたいがい破天荒だろ。高校在学中に結婚したんだろ?」
「え?! できんの?!」
「18になればできるよ。俺18歳の誕生日に結婚した」
「なんでそんなに急いだの? 子供できてなかったんだろ?」
誕生日て。焦りすぎだろ。孝寿らしくねえな。
「俺もガキだったんだろうなあ。18の誕生日に結婚することしか頭になかった。理由なんかねーんだよ、決定事項だった」
「へー。孝寿兄ちゃんも高校生の頃は年相応なガキだったんだ」
「笑ってんじゃねーよ。お前と同じだと思うなよ」
やっぱり、この兄貴達にまともな奴はいないのか。相談相手を間違えたな。
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