第90話 なぜポンコツなのに自信過剰な人間が出来上がったか

 そっか、アクセサリーに興味ないもんだと決めつけてたけど、興味出て来たんだ。なんやかんや成長してんだな、叶ちゃんも。もう小学生の叶ちゃんは叶の中にはいないんだよな。年相応に成長するのは喜ばしいことなんだけど、ちょっと寂しいかも。


「旅行の時に着けて行こうと思って買ってもらったんだけど、アクセ着ける習慣がないから忘れちゃって。今日初めて着けたの。どう?」


 え?! 俺との旅行のために買ったの? 俺に見せるために着けてるの?


「かわいい! めちゃくちゃかわいい! 俺このネックレスも叶も大好き!」


「えっ……え?! あ……ありがとう」


 周りを気にしてる様子で赤くなりながらも、嬉しそうに笑った。あ、俺電車の中で大声で何言ってんだろ。さすがにちょっと恥ずかしい。でも、超嬉しい!


「着いた! 叶、降りるぞ!」


「えっ、う、うん」


 叶の腕をつかんで電車を降りる。


 並んで歩いてても、時折日光を反射してキラッと光るネックレスが視界に入る。いいじゃん、いいじゃん!


「ペットショップ入る前に何か食う? この辺昼過ぎたら混むだろうから、先に食っちゃった方がいいかも。腹減ってる?」


 叶が待ち合わせに遅れた上にコンビニでごちゃごちゃしてたからもう昼前だ。


「うん、そこそこ」


「どこがいい? 何食いたい?」


「統基は?」


「俺はお前とだったら何だってごちそうだぜ?」


「また適当なことを言うー」


 笑ってるけど、俺は笑わせよーとして言ってねーかんな?


「ラーメンとか餃子食いたいかも。俺夏になったら熱いもん食えないんだよ。このシーズンがラストラーメンなの」


「ラストラーメンって初めて聞いたわ。じゃあ、ラーメン屋さん探そっか」


 ショッピングモールのレストランコーナーをチェックして、店に向かう。良かった、今ならまだすぐご案内できるらしい。


 それぞれラーメンと餃子2人前を注文して、待つ。まあ、すぐ来るだろ。


「統基って待つの嫌がりそうだよね。行列に並ぶのとか」


「時は金なりを信条としてるからな、俺は。ムダな時間過ごしたくねーの」


「せっかちなんじゃないの」


「そうかも。せっかちなとこあるかも」


「あ、でも私が遅刻しても怒りはしないね?」


「叶を待ってる時間はムダじゃないからな。むしろ楽しい」


 俺最高5時間近く叶を待ってたこともあるしな。あれは我ながらよく待ったわ。


 叶と自分の箸を割ったり餃子のタレを皿に入れたりしながらしゃべってたけど、叶の返事がない。顔を上げて叶を見ると、また赤くなってる。


「え、俺照れさせるようなこと言った?」


「言った! もー、なんでそんなスラスラ出てくるの?」


「お前こそいいかげん慣れろよ。俺多分一生言い続けるぞ。俺一生お前のこと好きだろうから」


 叶が一層真っ赤になって絶句している。俺そんな驚かせるようなことは言ってねえ。逆にお前は俺が一生好きでいるだろうことすら分かってなかったのか。


「お待たせしましたー」


 とラーメンと餃子が運ばれて来る。うわ、熱そう。今日天気良くて暑いし、もうすでにラーメンのシーズンは終わってたのかもしんない。


「いただきまーす」


 あー、やっぱり熱い。汗出てくる。しまった、ちょっと食うの遅かったな。てか今年が異様に暑いんだよ。季節前倒しなんだよ。


「あれ、食わねーの? そこまで猫舌でもねーだろ? 伸びちゃうよ」


「あ……うん、いただきます」


「箸そこに置いてっから」


「あ、うん、ありがとう」


 何も考えずに餃子を丸ごと口に入れて噛んだ。熱い汁みたいなのが口の中で噴き出す。


「あぶ!」


 熱! が言えない。がんばって口閉じようとしてるけど、熱過ぎて閉じきれない。なんか知んないけどよだれ出てくるんだけど。


「もー、汚いなあ、統基ー」


 と、叶が紙ナフキンを手渡してくれる。おお、ありがたい!


「あーあと」


 ありがとう、も言えねえわ。なんとか飲み込んで水で口の中を冷やす。


「あー、熱かった! 気を付けろよ、叶! この餃子殺しにかかってくる熱さだわ!」


「大げさだなあ」


 って言いながらもちゃんと半分に割って冷ましてから食べてる。うん、俺餃子は丸ごとひと口派だけどこれに関しちゃそれが正解だわ。


「あ、餃子ってニンニクだね」


「だな。ニンニク苦手なの?」


「え、苦手ではないけど」


 叶の顔が赤くなった。は? 今は完全に照れさせるようなことは言ってねえぞ。何赤くなってんだ?


「お前今何考えたの?」


「え! また、すぐそういう意地悪なこと言うんだから!」


「え? どこが意地悪なんだよ。俺は素朴な疑問をだな」


「もう! ラーメン伸びちゃうよ!」


 何なんだ、全く女心ってのは分からんもんだな。あ、そうだ、思い出した。観察、研究だ。この比嘉 叶をより知るために。たくさん会話をしよう。


「お前さ、親過保護なのにあんなにテストで点取れなくて親がっかりしたり塾行かせようとしたりしなかったの?」


「塾は、行きたかったら行けばいいんだよって感じ。私も小学校の時はちゃんと勉強してるはずなのに点数取れなくて泣いちゃったりしてたんだけど、ママが『点数が取れるからって取れない人を馬鹿にするような人間より、点は取れなくても一生懸命勉強した人の方が偉いのよ。自信を持ちなさい』って言ってくれて」


 ちゃんと勉強して人を馬鹿にしたりしない点数も取る人は度外視なんだ? 何そのポジティブ名言。


「そういえばさ、欠点のないことが欠点だとか人間ひとつくらい欠点がある方がいいとか、できないことがひとつくらいある方が人間は謙虚になれるとかちょこちょこ言ってたけど、もしかして全部ママに言われたの?」


 欠点もできないこともひとつじゃねえんだけどな。そこ忘れちゃいけない気がするんだけど、とりあえずは置いといて。


「そうよ。私、実は結構できないことが多くて昔はよく泣く子だったから、ママが励ましてくれたの。漢字テストで1問も正解できなかった時も、吹いても吹いてもリコーダーの音が出なかった時も、プールの授業で溺れた時も、中学生になってカバンが重すぎて学校まで歩けなかった時も」


 そうか。その積み重ねでこんなポンコツなのに自信過剰な人間が出来上がったのか……大きな謎が解けたわ。超スッキリ。


 そして俺はできないことが多くても堂々と生きてる叶が好きだ。ありがとう、かなママ。


 正しいよ。こんなまっすぐ生きてる子が多少ってか多々できないことがあったっていい。過保護とか決めつけて申し訳なかった。正しい子育てだわ。


 俺も廉に叶みたいにまっすぐ育ってほしい。どうか、俺みたいにならないで。

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