第89話 叶パパと高校生の娘
ペコンと通知が鳴った。スマホを確認する。
「ごめん、ちょっと遅れそう」
おい。もう待ち合わせ時間過ぎてんだけど。俺もう駅に着いてんだけど。
「家まで迎えに行こうか?」
「じゃあ、親いるから会って行く?」
……ご遠慮します。俺今日はまた一段とファンキーなカッコしちゃってんだよ。こんなんでお堅い彼女の親に会うって超チャレンジングだぞ。
「家の近くのコンビニくらいで待ってて」
駅から叶の家までそんなに距離はない。まだ準備が整ってないんなら、コンビニくらいでちょうど落ち合うんじゃねーかなー。
プラプラとコンビニへと歩いて行く。あれ、まだいねえ。先に到着しちゃって叶の家の方を見ると、叶と男が並んで歩いている。あれは……父親じゃねえか?! 40代くらいそうな、いかにも沖縄出身っぽいダンスボーカルユニットの真ん中で歌ってそうな濃い顔のイケメンだ。
なんで父親と来てんの?! どうあっても俺を紹介しようっての?! なんで?!
慌てて店内に入り、入ってすぐの雑誌コーナーで分厚い漫画雑誌を手に取り立ち読みを装う。すぐ後ろを叶と男が入って来た。あっぶねー。
「叶、ジュース持って行くか?」
「いいよ、重いから。早く電池買って帰りなよ」
「友達はまだ来てないの?」
「そうみたい。私店の外で待ってるから」
「叶、のど飴持って行きなさい。今日は乾燥してるから」
「もうー、いいよー」
やっぱり父親か。俺と会わせるつもりで連れて来た訳じゃなさそうだな。家を出る時にちょうど電池を買いに行く父親と鉢合わせちゃった感じか。
友達ねえ……彼氏がいるとは言ってねえのか。遥さんも俺の話はしなかったのかな?
店の奥へと入ってしまい、会話の内容は聞こえなくなった。今のうちに外に出るか? いや、このまま動かない方が目につかないか?
漫画雑誌を持ったまま微動だにせず、置物と化して気配を消す。会計をしてるっぽい。そのまま、こちらを見ることなく家に帰るんだ、お父上!
「はい、叶、のど飴」
「ありがとう、パパ。じゃあね」
「あんまり遅くならないようにな」
「分かったから。じゃあね!」
「本当にジュースいらないの? 今日天気いいよ」
「いらないから! じゃあね!」
「何かあったら電話してね、叶」
「分かってるから! バイバイ、パパ!」
叶のママが子離れできてない印象はあったけど、パパもかなりだな、コレ。想像以上の過保護だ、この父親!
叶とパパが店の外へと出て行く。何とかパパに見つかることなく窮地を脱したらしい。一応、パパの後ろ姿が見えなくなるまで待って……てか、何度振り返って叶に手を振るんだ、お父上!
やっと見えなくなってから店を出て、立っている叶の後ろから肩にポンと手を置いた。
「わ! びっくりしたー、え、コンビニの中にいたの?」
あ。パパと顔合わせたくなくて隠れてたとも言えねえな。
「ジュースでも買おうかなと思って。叶も何か飲む?」
「え……あ、うん」
叶と店内に戻る。店員からしたらあのガキ何してんだ、だろーな。
「え、あの……見た?」
「何を? ちょ――過保護な
「見てたんじゃん! どうして声掛けなかったのよ?」
「掛けられるか! お前だって俺のこと彼氏だって言ってないんじゃん」
「話聞いてたの?」
「全部は聞こえてねえよ」
2本のジュースを買ってコンビニを出て駅へと向かう。
「あんな感じなものだから、彼氏だなんて言いにくくて」
「じゃあ、なんで俺を親に会わそうとするようなメッセージ送って来たの?」
「言いにくいから、いっそのこと顔合わせちゃえばいいかなと思って」
かるーい思い付きでそういうことしようとすんのやめてくれる?
ペットボトルのフタを閉めたジュースを叶が手に持つバッグに入れた。それを引っこ抜いて俺の着てるパーカーのポケットに入れる。
「え?」
「重いんだろ、ジュース」
「え……ありがとう」
嬉しそうに笑う。なんか違和感……さっき叶、パパがジュース買おうとしたらいらないって言ってたのに、俺が飲む? って聞いたらすんなり選んでたな?
俺、どっちかというと構いたがりだから叶パパに近いかもしんないのに、俺のやること言うことにはいいとかいらないとか拒否することはほとんどない。だいたいありがとうって受け入れてくれる。遠慮していいよって言うことはあるけど。
何の違いなんだ? これ? 全然分かんない、この女心。
分かんない時は観察だ。データを集めるんだ。よく見てよく研究したら、何か気付けるかもしれない。
電車に乗って山手町に向かう。繁華街のショッピングモールに大きなペットショップがリニューアルオープンしたらしい。
「叶、リニューアル情報をよくゲットするよな。1年の時の遠足も臨海公園がリニューアルしたから行きたいって言ってたじゃん」
「パパとママが調べてくれるの。で、一緒に行こうって言われるんだけど、高校生にもなって家族でお出かけっていうのもねえ。ペットショップなんて特に山手町だから学校の子に会うかもしれないし」
「過保護がバレるのが嫌なんだー。俺いつの間にか叶の弱み握ってたんだ」
「脅すつもりなの?」
「俺が叶にそんなことすると思う?」
なぜか照れてる? 思わないけど、って小声で言いながら赤くなってる。叶以外の人間にならやりかねんけどな、俺。
「パパとママは仲いいの?」
「いいと思うわよ。一緒にお風呂入ってたりする。仲がいいからって言うより、その方が光熱費が浮くからって言ってたけど」
「お前が何回も引っ越しさせたから金に余裕なくなってんじゃねーのか」
「その可能性はあるわね」
もー、過保護に育てるから……でも、そういや今の叶は過保護を嫌がってるけど、小さい時から嫌がってた訳ではねえだろうな、多分。俺に対してみたいに、笑ってありがとうって受け入れてたんじゃねーかな。
親にしたらそれが嬉しくて、どんどん過保護に磨きがかかって今の仕上がりって訳か。たしかに、この笑顔を見られるならどんどん世話焼いちゃうし何でも許しちゃうかもなあ。
ん? 改めて隣に座る叶を見たら、胸元にネックレスが掛かってるのに気付いた。服と重なって立ってる時は見えてなかった。アクセサリー付けないのに、ネックレスって……誰かからのプレゼントか? 誰かってか、男じゃねーだろうな。
「何、お前これ。自分で買ったの?」
ネックレスをつまんで顔を近付けて叶を見た。
「なんで睨んでるの?」
「睨んでねーよ、別に」
睨んでたかも。やべー。男からもらったもんじゃないかと思ったら引きちぎりたくなってた。
「私年間評価で3を3つも取ったでしょ。だからご褒美に何か買ってくれるって親に言われて、ピアスはやっぱりダメって言われたからネックレスにしたの。キレイじゃない?」
親かよ! 高校生にもなって親とお出かけしてんじゃん。まあ、俺は全然いいと思うけど。いくつになっても親は親なんだから。
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