第54話 体育大会実行委員は自由で楽しい
我が下山手高校は教師も馬鹿ばっかりのせいか、遠足が終わるとすぐに体育大会がある。
「実行委員やる人ー。えー、いねーの? えー、今日中に決めなきゃなんねーんだよ。こんなもんのために放課後時間取るとか迷惑なんだよ。男子2人、女子2人、やる奴いねーの?」
高梨が教卓をバンバン叩きながらぶーたれてる。仮とは言えこんな奴を担任にするなんて、余程人材不足かこの学校。
実行委員なー。何するんか知らんが別にやってもいいんだけど、俺遠足係やったしなあ、と思ってたら高梨が
「箱作、入谷、比嘉、曽羽、やんない?」
とか言い出した。
「いいよー」
と手を挙げて軽く充里が言う。
「いや、いいけど俺ら、遠足もやったのにいいの? メンバー丸かぶりなんだけど」
「誰でもいいんだよ、そんなもん。この4人に異議ある人ー」
誰も手を挙げない。みんな自分はやる気ねえんだから、そりゃ挙げねーわ。比嘉の名前が挙がってるのにマザゴリはやんないんだ? と仲野の席を見ると、爆睡している。よし、ゴリラが寝てる内に決めちゃうか。ダラダラ放課後まで時間取られるのは俺も嫌だ。
放課後は早速委員会があった。結局放課後時間取られるんかい。競技を決めるって言うから、
「俺、パン食い競争やってみたいっす」
と言ってみた。
「あー、たしかに漫画とかで見るけどやったことありませんね。皆さん、どうですか?」
と小柄でメガネ男子な3年生の委員長がデカいテーブルをギッシリと取り囲む体育大会実行委員のメンバーを見回す。なあ、1年生は我ら1組から5組まで20人もいるけど、数えたら2年生は16人、3年生に至っては8人しかいねーんだけど? マジで学年消滅する可能性あるぞ、これ。
「俺もやってみたーい。あとさー、女子と二人三脚やりたいって有志から熱い要望があったの。二人三脚も入れてー。はい、いいと思う人挙手ー」
充里が手を挙げて皆さんへ促す。お前が仕切ってどうする。大人しそうな委員長がオロオロして困ってんじゃねーか。かわいそうに。
「いいと思いますー」
と1年生が率先して手を挙げると2年3年もまあいいか、って感じで全員手を挙げた。
「じゃあ代わりにダルそうだから1500メートル走外すねー。他は去年と同じにしときゃあ時間的にはそれで帳尻合うだろ。はい、決まりー。委員長、他に決めることあるの?」
「あ、後当日の当番を……」
と委員長が当番表を充里に差し出す。
「これ埋めりゃあいいのね。適当に名前書いてくよ。いい? 委員長」
「え? え、皆さん、どうですか?」
「いいと思いまーす」
俺が言うと、はい充里、と曽羽が充里にボールペンを渡す。
「充里、字汚いから愛良が書いた方がいいんじゃない?」
「それもそうだな。俺が名前聞いていくから曽羽ちゃん書いて」
だから、委員長をほったらかして勝手に進めるんじゃない、1年坊主達よ。だがしかし、それが正解だな。あの人の顔色をうかがってばかりの委員長じゃ話が進まない。権限持ってんだからお前が勝手に決めりゃあいいのに、めんどくさい奴だ。
充里がサクサク進めて、1時間もしない内に委員会が終わった。
「じゃあ当日もよろしくお願いします、箱作くん」
「いいよー」
最早委員長は誰だって感じだな。充里が委員長からお願いされてんじゃねーか。
体育大会当日も充里が中心で進行されていく。あいつ、すげーな。この学校で初めての体育大会なのに。
「入谷、次ー。お前パン食い競争だろー」
パン食い競争の当番になった2組の実行委員が呼びに来てくれた。お、比嘉にまとわりついてる内にもうそこまでプログラム進んでたんだ。
「おっしゃ! 行ってくるぜ比嘉! 見てろよ、俺の勇姿!」
「うん! がんばってね」
俺はスタミナはないから長距離走は苦手だが瞬発力だけはあるのでこの超短距離ならトップでアンパンにたどり着いた。が、くわえようとするとアンパンが動いて超難しい。すっげーイライラする。大人しく食われとけよこのアンパン! ムカついて手で引きちぎったら失格になった。ちっ、こんなもん競技に入れるんじゃなかった。
昼飯タイムを挟んで、二人三脚は楽しんでやる!ペアは俺らで勝手に決めたからもちろん俺は比嘉とペアになる。
「前が見えないんだけど!」
「俺だけ見てろって言ったじゃん」
「今は違うでしょ! 二人三脚しないと!」
「えー、二人三脚って抱き合って走るんじゃねーの?」
「違うから!」
ひたすら比嘉に抱きついて全然ゴール目指さなかったら最後は仲野に無理やり紐解かれて失格になっちゃったけど、大衆の面前で抱きつかれて恥ずかしがる比嘉が超かわいくて超楽しかった!
高校って自由だな。この高校だからか?
1年1組は最下位だった。だがしかし、やりたいことをやったので悔いはない!
「私こんなに体育大会が楽しかったの初めてだわ。充里と入谷がいた中学はこんな感じだったんでしょうね。私も同じ中学が良かった」
片付けで長椅子を折り畳んで運びながら比嘉が言った。俺と同じがいいなんて、かわいいこと言うじゃねーか。運動神経ぶっ壊れてる比嘉はたしかに体育大会なんて楽しくないイベントだろうな。
「馬鹿言ってんじゃねえ。俺らは常に大人の階段上ってんだぜ。中学の時はまだガキだから他のクラスの奴らと大規模な賭け体育大会やって超本気で競技してたらケンカになっちゃって、先生に超怒られた上に後から賭けしてたのまでバレて校長室にまで呼ばれて怒られたわ。教師全員すげー顔して並んでんの。あれはすごかった。なんかテンション上がっちゃってみんなで校長室破壊する勢いで暴れたら親まで呼び出されたわ」
「え、入谷不良だったの?」
「不良じゃねーよ! 俺が不良に見えるの?」
「まあ、ただのチャラい男にしか見えないけど」
「お前俺のことチャラい男に見えてたのかよ」
「見えるでしょ、どっから見ても」
まあ、否定はしねーけど。親がアレだからこのくらいふつーだろって思っちゃうんだよなあ。実際充里みたいにアクセ付けまくってる訳でもなくシンプルなピアスを両耳に1個ずつ付けてる程度だし。髪は茶髪だけど充里みたいに金髪でもねーし。てか、充里がチャラ過ぎるだけか?
「比嘉はピアス開けないの?」
「この学校ピアスしてる子が多いから私もしたくなって親に言ったことあるんだけど、体に穴開けるなんてとんでもないって泣かれちゃって」
「ええー、泣いちゃうの? 過保護もそこまで来るとひでーな。箱入り娘の嫁入りなんてなったら大号泣だろうなー」
「まあ、そうでしょうね。私結婚できないかもしれない」
俺と比嘉の家庭環境の違いがすげえ。過保護な親だとは思ってたけど、ピアスごときで泣き出すとは想像以上だ。彼氏っす、って俺が出てきたら倒れちゃうんじゃねーのか。
「入谷! なんでこんな所で椅子に座っておしゃべりしてんだ、お前は! 椅子を運べ!」
「あ、忘れてた」
ペシッと高梨に頭をはたかれた。なんか疲れちゃって手に持ってた長椅子を広げて座り込んでたわ。
「高梨それ暴力だぞー」
「サボってる奴に言われたかねえわ! 早く運べ!」
「片付け終わらせて早く帰りましょ。私もう疲れた」
「疲れたんなら休めばいいじゃん。横どうぞ」
「どうぞじゃねんだよ! 運べっつってんの!」
うるせー奴だな。しょうがねえ、長椅子をまた畳んで手に持つ。
「お前のも寄越せよ。持ってってやるから」
と比嘉の長椅子も小脇に抱える。
「大丈夫なの? 入谷も疲れてるんじゃないの?」
「ふっ、男がこれくらいで疲れるか」
カッコつけたけど、疲れてるし俺大して力ねえんだわ。長椅子重い。早よ運ぼ。
校舎内の廊下に長椅子が積まれている上に2つの長椅子を更に重ねる。グラウンドに戻ると、
「ありがとう」
と比嘉がにっこり笑ってくれた。あー、かわいい! この笑顔をご褒美にもらえるならもう2つくらいは運べるわ。それ以上はもう無理。腕もげる。
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