第53話 初めての彼女のいる誕生日は人生最高
深夜0時ちょうど、ロングスリーパーのくせに
「お誕生日おめでとう」
と比嘉からメッセージが来た。このために起きててくれたんだ。こーいうの、超憧れてたー! ザ・彼女って感じじゃん! かわいいことしてくれるな、マジで!
「ありがとう。ちゅっ」
って返したら、
「ちゅっ」
って返って来た。いいねー、このラリー100回やりたいんだけど。でも、寝かせてやらねーとな。
「おやすみ。ちゅっ」
「おやすみ。ちゅっ」
あー、ドラえもん見付けたら、もうタイムマシーンはいらんから、どこでもドアだ! 秒で比嘉の部屋に侵入したい!
またペコンと通知が鳴る。なんだ?
「ハッピーバースデー」
のキモかわいい謎の動物シリーズのスタンプが天音さんから送られていた。お、ホワイトタイガーかな? かわいいじゃん。
「ありがとー。俺キモ謎シリーズ好きー」
と返したら、プレゼントが届いた。受け取ると、キモ謎シリーズの最新スタンプだ!
「誕プレ。お納め下さい」
「かわいー。 ありがたく納めます」
いいねー、最新版もシュールだねー。比嘉にもいっぱい送ろー。動物好きだし。
しばらく天音さんとどうでもいいやり取りして、そろそろ寝まーすって言うからおやすみーと返して終わった。
あれ? 俺、天音さんに誕生日教えてたかな? なんかしゃべってる間にポロッと言ったことでもあったんかな?
俺でも覚えてねえのに覚えててくれたのか……ありがたいねえ、マジで。ありがとう、天音さん。
朝になって学校に行ったら、充里が派手に
「ハッッピーーバ―――」
って叫んでくれて、クラスの連中とか通りすがりの同級生とかがおめでとーって言ってくれた。
あー、幸せ。もしかすると俺は望まれない子供だったのかもしれないけど、希さん体弱かったのかもしれないしその辺は分からないけど、今、俺が生まれた日におめでとうって言ってくれる人がいる。俺、生まれてきて良かったんだ。みんな、ありがとう!
教室に入ると、いつも俺より遅く登校する比嘉がもういる。へー、珍し。俺が来たのを見て駆け寄って来る。
「お誕生日おめでとう!」
と取り繕うような笑顔で言ってくれる。……なんだ? なんでそんな微妙な笑顔なの?
「ごめん、入谷……入谷に何をあげたらいいのか分からなくて……こないだ喉がイガイガするって言ってたから、のど飴」
と、比嘉が申し訳なさそうにのど飴を差し出してくる。
……誕プレにのど飴? ちょっと意味分かんないんですけど。でも、比嘉自身もちょっと違うのは感じてるみたいだな。いつもの自信満々な様子はなく、うつむいてる。
そっか……悩んだんだろうな、俺に何を贈ったら喜ぶのか。
馬鹿だな、何も考えなくていいのに。
「ありがとう。でも俺が欲しいのはお前だよ」
「え?」
「俺、比嘉が欲しい」
「……付き合ってるのに?」
あー、まだ分かんねーか。まだ成長を待つしかねーか。
今日はバイトの休みを取ってる。放課後、両親とも仕事でひとりっ子の比嘉の家に行く。
途中のケーキ屋でバイトもしてないのに比嘉がケーキを2個買ってくれた。
「ありがとう」
と、ハッピーバースデーの歌を音感とち狂った歌声で歌ってくれた比嘉の唇にチューをする。
「お……おめでとう!」
笑顔で言ってくれる。誕生日ってのもあるのか、今まで程には過剰に照れてない気もする。今まで程には……どうかな? 変わんねーかな?
……変わんねーか。十分激しく照れてるわ。かわいいー。
「ありがとう、比嘉。大好きだよ」
と正直な気持ちを伝えたら、めちゃくちゃ真っ赤になった。なんだ、全然変わってねえじゃん。やっぱり超照れてんじゃん。
それでいい。少しずつでいい。少しずつ……天音さんの役割を残して。
ケーキは甘くて俺あんまり甘いの得意じゃないから正直胸やけ寸前だったけど、比嘉が祝ってくれてると思えば吐き気も抑えられるようだった。ただお茶は容赦なくおかわりさせてもらった。じゃなきゃ無理、吐く。
比嘉に誕生日を祝ってもらえるとは……俺は比嘉の誕生日を祝えなかったことが今更ながら悔しいな。比嘉は誕生日が早いから知らないうちに終わっていた。
「なんで誕生日教えてくれなかったんだよー」
と率直に不満を言う。
「だって、私の誕生日4月だよ。入谷だってそんな頃に誕生日アピールされたって困っただけでしょ」
……いや、今更だけど多分俺あの入学式の日に一目惚れしてたことを今となっちゃあ否定しねーぞ。
あー、意味不な謎のプライドに支配されずに初めっから素直に好きだって気持ちをぶつけていればもしかしたら比嘉の誕生日を祝えていたんだろうか。なんで俺、どうでもいいプライドに縛られてたんだ……!
「言って欲しかったよ、俺。だったら……」
だったら……比嘉の誕生日を祝いたい一心で余計なこと考えずに告ってたかもしれないじゃん。
もしも4月の時点で比嘉に気持ちを伝えられていたら、変な遠回りしてバイトしようなんて思わずに天音さんとも出会ってなかったかもしれない。そしたら、俺こんなダブルスタンダードなクズになってなかったかもしれない。
……いや、後付けだな。単なるタラレバだ。
比嘉のせいじゃない。俺がちゃんと認められてなかっただけだ。女の子を好きになったことがなかったから、分かんなかった。充里の二番煎じなんかヤダって気持ちの方が余程簡単に自分でも認識できちゃってた。俺、誰かを守りたいって、大事にしたいって、廉にくらいしか思ったことなかったもん。
「お前がいてくれるおかげですげーいい誕生日だわ。マジで人生で一番」
今日の俺はなんだかすごく正直だ。感謝の言葉がスラスラ出てくる。比嘉の目を見て言うと、比嘉はなぜか驚いた顔をした。なぜ驚く。
「そんなこと真顔で言って、本当によく恥ずかしくないわね」
と、赤い顔して言う。またそれかい。
「お前は何でもかんでも恥ずかしがり過ぎだよ。本当のこと言って何照れることがあるってんだ。じゃあ、言わない方がいいの? 俺もう2度とお前のこと好きだって言わないでおこうか?」
そんなの絶対嫌なくせに。
「いいわよ、言って」
困ったような顔をしながら比嘉が言う。そんな顔されたら止まんねーな、おい。
「本当は言って欲しいんだろ? なあ、どうなんだよ。俺は比嘉にたくさん好きって言って欲しいよ。ねえ、比嘉は?」
更に比嘉の顔が赤くなる。目が泳ぎまくって完全に困ってる。あー、かわいい!
「答えてくれないの? じゃあ俺は言わないから比嘉はたくさん言えよ」
「ダメ! 入谷も言って!」
焦った比嘉が慌てて言う。ほお、こんな素直なリアクションもするんだ。かわいいじゃねーか。
「じゃあ比嘉から言って」
「す……好きだよ」
「いえーい、誕プレゲットー。ありがとう、比嘉。俺も好きだよ」
力いっぱい比嘉を抱きしめる。あー、潤った。超恥ずかしそうな表情がたまらん! マジ人生最高の誕生日だわ。
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