第39話 神様は平等に

 新学期が始まり登校すると、入学式の時と同じ場所で同じような人だかりが目に入った。


 なんだ?


 近付いてみると、


「1年生 新学級編成表」


 と書かれていて、入学式の時と同じくクラス分けが貼られていた。


「え?」


 と驚きのあまりつぶやいてしまったら、隣にいた春奈はるな


「あ! 2クラス減ってる!」


 と気付いた。


「え? あ、マジだ、6組と7組がなくなってる!」


「なんで?」


 マジなんで? 夏休み明けたらなんで2クラスも減ったの?


「3組のヤンキーグループいたじゃん。無免で車乗ってて事故ったんだって」


 と智樹ともきが教えてくれた。


「事故って……どうなったの? 無事なの?」


「俺も知らない。10人くらい入院したとは聞いた」


「10人も? 車1台じゃねーよな、それ」


「1台だったら馬鹿過ぎるだろ。箱乗りかよ」


「箱乗りでも10人はねーわ。無理無理」


「え、万が一そんな状態で事故ってたら……」


 言うな、春奈!


 重苦しい空気が流れる。もっと詳細を知る誰かはいるだろうから、周りの奴らに聞けば分かるんだろうけど、無事じゃなかったら聞くんじゃなかったなことになる。


「でも、たしかにあの辺の男子がごっそりいないよ。安西あんざいとか野田のだとか」


「あ、退学じゃね? いくら底辺校ってもさ、高校生が無免で事故ったら退学なんじゃね」


「あー、それだ!」


 うんうん、そういうことにしとけ。


 あれ? でも、1組も何人かいねーぞ、これ。1組には元々1組の奴らがいて、そこに元6組と7組が編入してるみたいなんだけど、ざっと見ただけでも那波と真鍋がいない。あ、上の宮うえのみやもいない。


 那波も真鍋も夏休み中に会った時には何も言ってなかったけどなあ。那波とか上の宮とか、女子まで、なんで?


 良かった、比嘉はいる。なんか不安になってしまった。


「おはよー」


 充里が登校して来た。集まってる俺らを不思議そうに見ながら近付いて来る。


「え? 何これ? またクラス発表されてんの?」


「いや、なんか、1組に6組と7組の奴らが混ざって来てんの」


「は? うわー、仲野なかのが1組に来んのかよ……」


「え? マジで?」


 仲野はなんか知らねーけど、入学当初から俺と充里を敵視してくる。俺らを2人まとめて。


 軽音楽部のエースなのに、帰宅部の俺とバスケ部幽霊部員の充里を。意味が分からん。


「え、那波と上の宮と真鍋は?」


 充里も気付いた。


「他のクラスになっちゃったんかね?」


「えー、いねーよ? あ! 優夏!」


 充里が優夏を目ざとく見付けて、呼び寄せて顔を寄せる。反対側から俺も優夏に顔を寄せる。


「え! 何?」


「那波、なんで名前ないの?」


「お前、那波と仲良いだろ。知ってんだろ? 優夏」


「え? え?」


 あー、なんか懐かしい。中学の時、よくこうやって下手に動くとチューする距離で女子を間に挟んで遊んだなー。


「絶対、言いふらしたりしないでよ?」


 よし、落ちた。


「するかよ。どうかしたの?」


「那波、真鍋との子供できちゃって学校辞めたのよ。那波の両親が超激怒で責任取れって言って、真鍋も就職するために学校辞めたの」





 教室には、とりあえず1学期と同じ席に元からの1組が座り、空いてる席に旧6組7組が適当に座っている。いくつか机が足されてるみたいだな。


 比嘉の隣、那波の席はまだ空いている……比嘉は、那波の席の机を悲しげに見ている。


 1度は感じわるーいとか言われたけど、テスト前におすすめのアプリ教えてくれたり、夏休みも何回か会ってて友達の少ない比嘉にとっては仲のいいクラスメートだったんだろう。


 俺も思うよ。学校辞めるにしても、何か言ってくれたら良かったじゃんって。


 休み中に会った時には、まだ学校辞めるなんて決めてなかったのか言えなかったのか、分かんねーけど。


「比嘉!」


 空いてるし、比嘉の隣の席に座る。充里と曽羽も比嘉の様子に気付いたのか、こちらに来た。充里は比嘉の前、自分の席に座り、曽羽は比嘉の席の脇に立つ。


かなう、宿題持って来た? 私カバンごと忘れて来ちゃって」


「手ぶらで学校来たの? 曽羽」


「そうみたい」


「すげーな、お前。てか曽羽、制服も違うくない?」


「あ! ほんとだ、愛良。中学の制服じゃない、それ」


 やっと比嘉の笑顔が見られた。良かった……。ありがとう、天然。


「寂しいね。那波、優夏以外誰にも学校辞めるって言ってなかったみたいだよ」


 やっとの笑顔をかき消すんじゃない、天然。


「まあ、いーんじゃね? 新しい命の誕生は素晴らしいことだよ。めでたい、めでたい」


 のかも知らんが、そういう問題じゃねーんだよ、比嘉の寂しさは。黙ってろ、自由人。


「神様って、平等なんだな」


 珍しく無表情で、那波の机を見ながら充里が言う。


「那波みたいな高校生にも、神様は平等に新しい命を授けるんだな」


 ……たしかに。高校生になんて新しい命を授けても、どーすんだよって感じなのに。そんな都合は関係なしに、神様は平等なのか。


「充里、他人事ひとごとみたいに言ってっけどさ、他人事じゃねーだろ、お前」


 しょっちゅう曽羽と天神森行ったり、お泊まりしてるくせに。


「だって、俺が父親になんかなると思うー?」


「思わねーけど、真鍋もきっと思ってなかったよ」


「てかさ、真鍋と那波って付き合ってもなかったのに子供はできるんだな」


「……え? いや、俺も知らなかったけど、付き合ってたんじゃねーの?」


「那波とは付き合ってねーだろ。真鍋、結愛と付き合ってたじゃん。なあ、来夢らいむ?」


「っだよ! 俺に聞くなよ、充里! 真鍋はノーマークだったわ! 結愛と付き合ってたはずだよ、確実に! あいつ二股かけやがって!」


 ……え? 何? 真鍋、結愛と付き合ってたけど那波と二股で? 那波に子供ができたの?


 ……充里の言うように、神様は平等なの? 高校生にも、なんなら付き合ってもなくても、神様は平等に子供を授けたりするの?


 ……付き合ってなくても? マジで?


「どうしたの? 入谷、汗すごいけど」


 隣の席に座る比嘉が心配そうに俺の顔を覗き込む。


「顔、見るな!」


「え?」


 頭を抱えて机に突っ伏した。こんな俺の顔、見せられない。


 何か、とんでもない間違いを犯していた気がしてきた。天音さんがお互い様でいいって言うから、じゃあいいか、くらいに気軽に考えるようになってたけど……正体のハッキリしない黒いモヤモヤが自分の中にじわじわ広がるのを感じた。

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