第7話 長男なのに4人の兄ができたら五男

「悠真おせーなー。あいつ忘れてんじゃねーだろな」


 親父が腕時計を見る。ソファに座り直した長男が振り向いた。


「めんどくせーって昨夜言ってたから、来ないかもよー」


「許さん! 電話しよ」


「廉、ゲーム再開しよーぜ」


 親父が電話をかけ始め、長男次男と廉はゲームに戻った。


 四男が眼光鋭く親父を睨みつけている。あ、もしかするとこの人は何も知らずにうちに来たのか? 次男がリョウとユウしか知らなかったって言ってたのって、多分長男の亮河と三男の悠真のことだよな。


 孝寿って人は、俺と同じ状況なのか! そりゃ睨みつけたくもなるわ!


 親父の電話が終わると、孝寿って人が親父に食ってかかった。


「なんだよ、パパ! こんなデカい家に住むくらい金あるんなら、お小遣いもっとくれてもいいじゃん! 俺、子供生まれたばっかで大変なんだよ! 奥さん産休中だし!」


 金かよ! しかも、子供いるのに親父から小遣いもらってんのかよ! ダメダメな父親じゃねーか、お前! もう、マジ何なんだコイツら、まともな人間がいねえ!


「孝寿の顔見せに来てくれたら10万やるよ」


「え? マジ? 毎日来たら毎日10万くれんの?」


「ああ、やるよ。嫁さんも連れて来たら50万やる」


「50万ごときで連れて来るか! 俺が5日通うわ!」


「何もしねえよー。見るだけ、見るだけ」


「何を見る気だよ!」


「孝寿、なんで前髪上げてんだよ。下ろした方がパパ好きだなー」


「嫌だ。最近、パパ俺にまで手ぇ出しそうな顔してくるから気持ち悪い」


「ちょっとくらいいいだろ、親孝行だよ」


「親孝行?! そうだ、なんでその人に親孝行させよーとしてんだよ! 長男とかって何なんだ! 俺が長男で次男が廉だろ! 五男って何だ五男って! なんで五男にまで下がってんだ!」


 やっと我に返った。しばし呆然としていたらしい。


「亮河も慶斗も悠真も孝寿も俺の子供だからだよ。俺の血を分けた、正真正銘、統基のお兄ちゃん達だ」


「俺の子供って……どういうことだよ?」


「だから、みんな俺の子供で、みんなの父親が俺なんだよ」


「え……理解できねーんだけど」


「お前、頭悪いだろ。異母兄弟ってことだよ。俺も異母兄弟がいるらしいことは知ってたけど、こんなにいるとは知らなかったから驚いたわ」


 と、孝寿って人が言った。


 ……異母兄弟……? 異なる母……え、ってゆーことは……


 母親は違うけど、ここにいるの全員、親父がはらませた親父の子供ってことか?!


 あ、廉だけは今の母さんの連れ子だから違うか。


 なんだよ! 弟だけ血が繋がってないって、ややこしいな、おい!


 ピーンポーンと、またしてもインターホンの音が響く。


「やっと来やがったか、悠真」


 と、親父が出て行く。親父のあの顔は、悠真って奴くどくど説教食らうな。親父は余程、今日息子達を集めたかったんだろうか。


「しっかし、デカい家だな。ホストってそんな儲かるんかね」


 孝寿って人が話しかけてくる。あれ? 愛想のない奴かと思ってたから、意外だな。


「あー、親父何十年もトップだったらしいし、店経営するようになっても現役でやってっからっすかねー」


「あれで伝説のカリスマホストだってんだから、天神森てんじんもりも大したことねーな。俺聞いたことあるわ。入谷 銀士ぎんじからシルバーって名前で、名前はシルバー売上はゴールドだろ」


「そうそう。ダセーっすよね」


 この人、親のそんな話をどこかで聞いたんだ……地獄だな。伝説のカリスマホストだかなんだか知らんが、親父は派手好きで俺から見たらダセーって感想しか出て来ない。


「ダセーな。上3人はパパに続いてホストやってるらしいけど、俺はホストにはならん」


 へー。中性的で整った顔立ちだから女に気に入られそうなのに、意外だな。


「今何やってんすか?」


「大学生」


 なるほど。やっぱり実際若いんだ。それで子供いるんじゃ親父が勝手に小遣いやってるのかもしんねーな。


「バイトでホストもいいんじゃねっすか。金ねえって言ってたし。その顔なら親父越えもあるんじゃねーすか」


「嫌だ。奥さん以外の女に無駄な愛想振りまくとか、奥さんが嫌がるから」


「へー、愛妻家なんすね」


「結婚したからには、当たり前だろ」


 ……おお、俺の目を見て言い切ったよ。多分、今の言葉に嘘はねーな。完全に当たり前だろ何言ってんだよな顔をしてた。重ね重ね意外だが、コイツ意外とまともなのかもしれない。


 しかも、初対面からわずか数分で俺が頭悪いことを見抜いていた! コイツ、鋭い目を持っている!


「なあ、孝寿兄ちゃん」


 孝寿の肩に手を置いて、顔を寄せ少し小声になる。


「急にフレンドリーだな!」


「え、ダメっすか」


「いや、いいけど。お前、名前なんだっけ?」


「統基っす」


「統基ね。何?」


「ストーカーって、なんですると思う?」


「は?!」


「ストーカー。知ってる?」


「知ってるよ! ストーカーをする理由ってこと?」


「そうそう」


「そりゃ、ストーカー対象が好きだからじゃねーの?」


「……そうかー……なあ、他に理由思い付かねえ? 何でもいいから」


「なんだよ、統基の好きな子が他の男をストーカーしてんの?」


「え?! 俺そんなこと言ってねーじゃん! 俺別に比嘉のこと好きじゃねーし!」


「へー、比嘉って子が好きなんだー」


「違うっつってんじゃん!」


「かわいいな、統基ー。気に入ったわー」


「かわいがるんじゃねーよ!」


 あー、聞くんじゃなかった! 孝寿が数分前の無表情が嘘みたいにニコニコと笑いながら俺の頭をポンポンと叩く。


「お前ら、集まれー。やっと全員揃ったわー」


 と親父がリビングに入って来る。後ろから、いかにもホストっぽいやたら耳にピアスを付けた明るい茶髪のチャラそうな男もうんざりした顔で入って来た。……あー、あれが三男、悠真か。

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