第6話 かわいい弟とホストども

「お兄ちゃん、ゲームしよーよ」


 お、またか。負けて半泣きになるくせに、毎週挑んで来やがるな。いっちょ揉んでやろーじゃねえか。


「いいよ、何すんの?」


「スマブラ」


 スマブラかー。俺苦手なんだよなー。でもれんは最近スマブラばっかやってるから、かなりお気に入りなんだろーなー。よし、間を取ろう。


「スマブラ30分やったら、ぷよテトしよーぜ」


「えー、お兄ちゃんテトリスね。お兄ちゃんぷよぷよ強過ぎるんだもん」


「しゃあねえなー。その代わり、手加減しねーぞ」


「いいよ! 僕ぷよぷよね!」


 廉がかわいい笑顔で言う。思わずおう! って言ったけど、あれ絶対、ぷよぷよの方が有利じゃね? 俺がぷよぷよ得意なだけか?


 日曜日の昼前。廉とソファに並んで座り、廉がゲームを起動してくれるのを待つ。


「僕負けないよ! だいぶ操作のコツつかんだんだ!」


「えー、俺負けるかもー。廉に負けるとか俺兄貴のプライドズタボロじゃねーかー」


「ゲームごときにプライドかけなくていいよ、お兄ちゃん」


 そう言われるとそうなのかもしれないけど、嫌だ! 俺は弟になんか負けねえ!


 いざ、勝負だ、廉!


 あ、やべー、マジで廉うまくなってる! 先週やった時は余裕だったのに! ヤバいこれ、負けるかも……嫌だ! 俺は絶対、弟になんか負けねえ!


 ピンポーンと、インターホンの音が広いリビングに響く。


「あ! 誰か来た! 兄ちゃん出るから、これ無効な!」


「え?!」


 センターテーブルにコントローラーを置いて、玄関へ向かう。ドアを開けると、見たことない長身のお兄さん2人が立っていた。1人は黒髪にスーツ姿だが、もう1人は伸ばしっぱなしっぽい金髪のロン毛でもう昼だってのに眠そうだ。


 誰だ。不審者か。


「オーナーに呼ばれて来たんだけど」


 うわ! このスーツの男、変な声! ピシッと決まったカッコいいスーツ姿と声がまるで一致しねーんだけど。


「あ、親父っすか。今親父いねーんすわ。店じゃねっすかね」


 なるほど、コイツら親父の店のホストか。親父が家にキャスト呼ぶなんて初めてだな。あー、びっくりした。


「俺ら店から来てんだよ。いねーんなら上がって待つわ」


 と、もう1人の金髪の男が言って2人とも勝手に家に上がり込んで行く。


 図々しいな、おい。ホストっつっても社会人なんだろ。お邪魔しますくらい言えねーのかよ。なんだ、あいつら。


 ホスト達の後を追うようにリビングに行くと、ソファで1人でゲームを続ける廉の方へとホスト達が近付いている。あいつら、廉に何かするんじゃねーだろうな?!


「お、ゲームしてんのー?」


「え、何これ? 今のゲームこんなんなってんの? これどうやんの? 教えてよ」


 廉がホストに絡まれている。今すぐ兄ちゃんが助けてやるぜ! 廉の元へと走り出す。


「こうやってー。ほら!」


「えー、勝手に画面遠くなるんだ! すげーな、今のゲーム!」


「これだからジジイは。スマブラだろ、俺もできるぜ。ちびっ子よ、勝負だ!」


「僕、強いよ!」


「言ったなー! 俺、絶対負けねえ!」


 ……なんだよ。何、俺の弟と秒で仲良くなってんだよ。廉は俺の弟だぞ、お前ら!


 ピンポーンと、またインターホンの音が響く。


 なんだよ、もう! 俺の弟が不審なホスト共に何かされたらどうしてくれる!


「はい」


 と苛立ってドアを開けると、女優さんみたいに綺麗な顔をした男の人が仏頂面で立っていた。


 ……誰? 俺よりは年上そうだけど、まだ若そうでホストっぽくはない。茶髪で前髪を後ろに流している。


「どちら様っすか」


「パパに呼ばれて来たんだよ」


「……パパ?」


 俺のパパって意味か? この人は雰囲気ホストっぽくはないけど、顔いいしこの人も親父に呼ばれたキャストなのかな?


「あ? お前孝寿こうじゅ?」


 親父が知らねー人の後ろに立った。親父はかなりデカいから、親父の顔分くらいの身長差がある。


 やっと帰って来たか、親父! 人呼んどいて留守にしてんじゃねーよ!


「はい」


「なんだよ、久しぶりに会ったらすっかり男っぽくなりやがって!」


 ガハハハ、と親父が笑う。やっぱり親父が呼んだホストなのか。


「なんで家にキャスト呼んでんだよ、親父。せめて言ってけよ。あー、びっくりした」


「キャストじゃねーよ、統基のお兄ちゃんだよ」


 と、親父が言った。


「……は?!」


「統基のお兄ちゃんの、いずみ 孝寿だ。仲良くしろよ、お前ら」


 このお兄さんが、俺のお兄ちゃん?! 俺が廉のお兄ちゃんなんだけど?!


 呆然とする俺をよそに親父が玄関ホールに入り靴を脱いで家に上がる。茶髪のお兄さんが俺の顔を無表情で見て通り過ぎ親父に続く。


 ちょっと待て! 俺を取り残して行くんじゃねえ!訳分からんことを言っておいて説明はないのか! 意味が分からん! 親父を追う。


「んだよ、親父! お兄ちゃんって!」


「おー、お前らもう来てたんだ!」


 親父は俺を無視して、ホスト達に声を掛けている。話を聞け! もしくは話をしろ!


「なんだよー、もう廉と仲良くゲームしてんの? さすがお兄ちゃんだなー」


 何なんだ! ホスト界では年上の男をお兄ちゃんと呼ぶ習慣でもあるのか!


 ふざけんな、廉のお兄ちゃんは、この俺だ!


「このお兄ちゃん達、僕のお兄ちゃんなの? 統基お兄ちゃんじゃないのに?」


「そうだよな、廉! お前のお兄ちゃんは俺だけだよな!」


「そうだよ、お兄ちゃん」


 廉! かわいいな、廉!


「お前らまだ自己紹介もしてねーのかよ。じゃあ長男の亮河りょうがから自己紹介しろよ」


 ……自己紹介? 親父に自己紹介を促されたスーツの男がソファから立ち上がる。


森山もりやま 亮河りょうが。30歳で……何言えばいいんだよ、オーナー。 子供5人いてー、とか言っときゃいいの?」


 この声変なのが長男? 長男って何? 誰の長男?


「いんじゃね? それで。じゃー、次、次男の慶斗けいとね」


 親父は自己紹介を次に進める。……いや、よくねーよ。なんもよくねーよ。

 金髪の男が立ち上がった。


滝沢たきざわ 慶斗けいとっす。子供は2人。元嫁の子供も2人ー。養育費かかってしゃあねーわ、あはは。てか、俺リョウとユウしか知らなかったんだけどー。オーナーまだ子供いたのかよ、マジウケるわー」


 よくしゃべる奴だ。だが言ってる内容は全く分からん! 元嫁とか養育費とかリョウとユウとかまだ子供いたのかよとか、どういう意味?!


「次、三男の悠真ゆうまいないから、四男の孝寿ー」


いずみ 孝寿こうじゅ。子供1人」


 俺のすぐそばに立つ茶髪の男が不満げにぶっきらぼうに言う。なんだその態度、不機嫌になりたいのはこっちだよ! ケンカ売ってんのか、コイツ!


 ムカッときて男の方を向いた。え? 子供いるの?! この人に? 子供いるような年に見えねーよ? マジで?


「はい、五男の統基ー」


 え、俺もこれやるの? てか、五男? ……五男?! ……五男……。


「入谷 統基……あ、高1」


 俺は子供はいないから、何となく年を言った。頭真っ白で何も考えられないだけで、意味はない。


「高校生かよ! 若!」


 ホスト達が驚いている。いや、俺の年より驚きポイントバカスカあったろーが! マジ何なんだ、お前らは!


「1番若いのが、六男の廉だ」


「廉、何年生?」


 金髪の男が隣に立った廉の頭にポンと手を置いて尋ねる。


「僕、5年生だよ」


 笑顔で廉が答えると、スーツの男がえー、と声を上げた。


「俺の子供と同級生じゃん! 廉、小さくね?」


「廉かわいいー。小学生も高学年になったら憎たらしいもんなのにー。リョウの子供なんかクッソ生意気な口きくのにー」


 金髪の男が廉の頭をグリグリとなでる。さっきから、俺の弟に気安く触んじゃねえ!


 この金髪の男、次男の慶斗って人が1番背が高くて見た目がいいな。


 ただ、金髪のロン毛が寝癖そのままか、くらい乱雑で見苦しい上に、鮮やかな紫のスウェットの上下にカラフルなアクセサリー馬鹿みたいに付けてて、すげー目ぇチカチカしそうなくらい色がうるせー。


 その点、身だしなみがきちんと整ってるのは長男の亮河って人だな。


 黒髪でスーツだし、落ち着いた大人の男って感じがして、いかにも頼りがいありそうだ。ただ、声がヤバいくらい変だ。こんなギャップには萌えない。


 顔の造作だけで見るなら、1番綺麗な顔してるのは後から来た四男の孝寿って人だ。


 でも、俺より少し背が高い程度であんま身長ない。背の高い長男次男と並ぶと見劣りすっかな。


 しかも、無愛想無表情で仲良くしろよって親父は言ってたけど、仲良くなれる気がまっったくしねえ!

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