姉が尊すぎる。
山岡咲美
姉が尊すぎる。
姉が俺の部屋で意味の解らん事を言い出した。
「そんないけません、インターネットメールでなんて……」
2つ歳の離れた俺の姉、
「あのボケ夫婦が晩婚で授かった子供をバカみたいに純粋培養するから!」
「
「姉さん、口の聞き方がなんです?」
「そんな、
「「バカ」と言った事をおっしゃりたいのでは?」
「武さん、そのような……言葉は……」
「「汚い言葉」は止めなさいと?」
「…………」
姉は何時もこうだ、姉には「バカ」や「汚い言葉」なるものが口にするのもはばかられる物らしく、姉の専属通訳者である俺でもいなければ一般的な生活をしている人と会話すら成り立たないのだ。
「姉さんは今まで良く生きて来られましたね」
「…………?」
「姉さんはどうやって家の外の人とコミュニケーションを?」
「私、こう見えて社交的なのですよ、友人達の間では……」
「「お喋り」で通っているんですよね、知ってます!」
……その友人達はどんなおかしな人物なんだろう? テレパシーで会話してるのかな?
「まあいいでしょう姉さん、本題です、姉さんは好きな人が出来たんですよね」
「…………」
黙っていても解る、顔が真っ赤だ。
「それで告白したいんですよね」
姉は目を泳がせながら「コクリ」と頷いた。
「で、会うだけで顔が熱くなってなにも出来ないから俺に相談しに来たんでいいんですよね」
普通に「付き合って下さい」って言えば姉さんならまあ、10割とは言わんが7、8割成功すんじゃねーの? って思えた、こういっちゃなんだか性格がとんでもなく難儀なだけで容姿は老若男女全てに受け入れられそうな美人だし、方向がおかしなだけで性格もいいのだ。
「顔を会わせるのが嫌ならまず手っ取り早くメールでって思ってメアド交換させたでしょうに」
俺の行動は素早かった、姉の友人と遊びに行くと言う口実を作り、待ち合わせの連絡手段としてメアドを交換させたのだ。
姉の思い人は俺の友達だった、幼馴染みの男で初等科の頃からの腐れ縁、人見知りの姉もよく家に来るそいつとだけはまともな話しが出来ていた。
姉がそいつ
「なぜメールではダメなんです?」
「やはり告白というものは顔を会わせてするのが誠意だと私思うのです……」
「姉さんは文明開化の人ですか?」
「武さん、明治時代にはインターネットメールは……」
「存在しないのは知ってますよ姉さん、例え話です」
姉は男前か? 姉には向こうから告白してもらうという奥ゆかしさよりも誠意という名の正義、高潔さが優先されるらしい。
父さん、母さん、育て方間違うからこんなこじれた人間が出来上がるんですよ!
「姉さん、やっぱり俺が豊に話しましょう、きっと豊も姉さんがの事が好きですよ」
いやホントメンドイ、これ絶対告ると直ぐ上手く行くやつ、早く告ってイチャ付けよ(この小説のレーティングを上げない範囲で)。
「ですが私の方が年上ですし、私が豊さんを……」
「「好きだから」ですか?」
姉はまた顔を赤らめる、本当にメンドクサイ! 言葉は最後まで言ってくれ!
「解りました姉さん、妥協案です、手紙、恋文を書きましょう!」
「ラッ! ラヴ、レターー?!!」
あっ面白い! 姉さんが「ラヴレター」とか言ってる、俺の提案に驚いた姉さんが普段なら絶対に言わないだろう単語を口にした。
「ええ姉さん、それを対面で渡すのです、そうすれば誠意もあるし想いも伝わるでしょう」
俺は思う、顔を真っ赤にさて手紙渡せば100パー告白だと解るだろう(いつの時代だって話だが)。
「はい…………、がんばりま…………す」
***
─────────────────
梅散りて 桜溢るる この季節
あなた想いて 言葉溢れん
─────────────────
「なんです姉さんコレ?」
「恋……文」
「恋文じゃねーよ! 和歌だよ、おつむ平安時代か!!」
天然ってすごいよ本当に!
「今、令和真っ盛りですよ姉さん!」
「ダメです…………」
「ダメですか?! ダメです!!!!」
「姉さん、流石にこれでは伝わりません、何処の歌会始めですかってなります! もっと解りやすくお願いします」
「解りました…………」
本当に解ったんだろうか?
─────────────────
拝啓 豊様にいたしましてはこの暖かな春の中どのような日々をお過ごしでしょうか?
私はといいますと今という時を重い気持ちで生きております
それはある方への想いが
そのある方は弟の友人であり弟とは
私はその想いを伝えなければと夜も眠れぬ程となり、弟に相談したところ
どうか私の想いをそのある方がお気づきになり、私の想いを受け止めていただきたいと思っているのです
豊様どうか春の暖かさに油断なされず、お体に気をつけながらお過ごしくださいますよう心から想っております
敬具
───────────────
………………
………………
「なげーよ! そしてまた解りづらい!!」
「でも……私の想いを……」
「「今という時を重い気持ちで」から「ある方への想いが募り」とか
俺は意地の悪い現国教師の様に姉のラブレターにダメ出しを喰らわした。
「……………………………………………、」
姉は今にも泣き出しそうな顔をした。
俺は「ハッ」と気づく、そうだ、そうなのだ、姉はいたって真面目にこの手紙を書いたのだ、真剣なのだ。
「ごめん姉さんもう一度書こう、姉さんが納得したうえでちゃんと伝わるラブレターを」
「………………………うん、そうね……」
***
とある桜の木の下で。
「あの、これ、読んでほしい…………の」
「わかった、真剣に読む!」
姉さんは豊にラブレターを渡した。
─────────────────
好きです。
─────────────────
姉のラブレターにはただ一言そう書かれていた。
姉が
姉が尊すぎる。 山岡咲美 @sakumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます