カーニヴォ
「魔王様、お肉美味しいですか。」
「あぁ、旨いぞ。タンもいいが次に出てきた肉も食べ応えがあってよいものだな。」
七輪の上には塩もののタンに続いて、たれものが焼き始められている。
「こちらはハラミですね。」
「部位というのではこれはどこの肉なのだ。」
「ハラミは横隔膜ですね。横隔膜とは息をする時に動かすお腹の上部にある筋肉のことです。」
「ほう、人で言うとこのあたりか。」
そう言って魔王様はみぞおちのあたりをさする。
「なかなか程よい歯ごたえだ。肉をお食べえているという実感がある。」
「肉を焼いた後に付けるたれもあっさりしていて肉のうまみを邪魔しないほどで、アクセントを効かせてくれるよい物でしょう。」
「うむ、しつこすぎないたれが良いぞ。」
「それで魔王様、ビールもいいですけどこちらもいかがですか。」
そう言って俺は注文した一本のボトルを取り出した。
「それはなんだ。」
「お肉専用の黒ワイン「カーニヴォ」です。」
「ふむ、ワインか。」
「お気に召しませんか?」
「いやな、今までおぬしが用意してくれたワインにハズレはなかった。だから疑うわけでは無いのだが……、ワインはもっと静かに飲むものだと思ってしまっていてな、このような焼き肉という野趣あふれる食べ方に合うのかと疑問を持ってしまったのだ。」
「なるほど、大丈夫ですよ。私自身で一度試したことがありますから。」
ちなみに、この「焼き肉工房 じゅじゅ」ではボトル販売になっている。試しにグラスで一杯というのができないため、1人焼き肉していたオレには最初敷居が高かった。
だってボトル一本で2980円するのだから。
だがよく考えてみたら俺は焼き肉屋に来てビール何杯飲んでいる?
普通居酒屋や料理屋で生中頼めば500円はするだろう。
だが俺は6杯ぐらい普通に飲む。
コスト的には問題ない。
問題は旨いかどうかだけだった。
ちなみにボトルはお持ち帰りできるらしいので飲み残しも安心できた。
だから俺は試してみたのだ。
結果から言おう。
安モンの普通のワインより飲みやすい。
風味にコクがあって、しかしアルコール臭くない。
口に含めば程よいタンニン、赤ワインを飲んだ時に感じる苦みのような木の香りのようなあの独特の風味。それが確かにあるのに主張しすぎない程度になっていた。
「ふむ、ならば試してみよう。」
そう言って魔王様はグラスを受け取った。
そのグラスに俺はワインを注ぐ。
「ほう。本当に黒いのだな。どれ――」
魔王様はワインの香りを確かめる。
「ふむ、香りは肉の匂いが強くて分かりづらいな。とりあえず肉を食ってみるか。」
そう言ってハラミを一切れ口に入れ咀嚼する。
そしてゆっくりグラスを傾けてワインを口に含まれた。
「んん、これは。なるほど肉のうまみを確かに引き出している。そうだな、ビールがゴッと一気に流し込むならば、こちらは肉を柔らかく包み込んで優しく味合わせてくれている。」
「お気に召しましたか。」
「うむ。他の肉でも試してみたいな。」
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