爺ちゃんと女の子

「ハイお爺ちゃん。お肉が焼けたのじゃ。」

「おお、すまんの。」

 一方では勇者の仲間の魔法使いのウェイバーと魔王様の末娘のアクア様が一緒にお肉を食べている。

 そこに俺も加わっているのだが、


 ウェイバーは向こうでは老賢者というべき風格のある豊かなおひげを蓄えた方である。

 それがこちらの世界ではなかなかに浮いている。

 明らかに日本人離れしたお顔立ちだからだ。


 しかし、この変装、人間にはうまく化けてるけど日本人には化けてないよな。

 明らかに国籍のバラバラな集団が仲良く焼き肉屋で飲み会してるように見えるだろう。


 その点で言うと、ウェイバーは北欧系の顔立ちで、日本好きのフィンランド人という設定にしてある。


 それに対するアクア様の恰好はお人形さんのようなフリルのついたドレス姿。

 普通はそんな恰好で焼き肉屋には来ない。

 が、俺達は普通じゃないから仕方ない。


 ここに来る前には一度アクア様の大人ヴァージョンの幻影を見せてもらったが、年のころは二十歳前後、服の印象で少し幼く見えたがちゃんとした大人の姿だった。

 肌が白くて豊かな金髪、日本人離れしたスレンダーで出てるところは出ている体形、まるでフランスの貴族のような豪華な人、として見えていた。


 なのになんで俺にだけはロリ姿のままに見えるようにしてるんだろう?


 とりあえず、2人は焼けたお肉を食べるとビールを「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。」と、オッサンみたいに煽りながら飲んでいた。

 これは俺が悪い。

 皆俺の飲み方を真似したんだけど、俺がオッサンだったからだ。


「「ぷはぁぁぁああああああああ。」」


 アクア様はともかく、ウェイバーはビールを飲むのが似合っている。

 そしてまた焼けたお肉に箸を伸ばしている。

 2人共お箸の使い方が上手い。


「のうのう、ノンベェよ。こっちでは肉の種類が豊富なんじゃな。」

「そうですか。」

「ほれ、このように何種類も。」

「……ああ、これは肉の部位によって名前が違うんですよ。」

 俺はアクア様が言いたかったことに少し考えて気が付いた。

「部位とな。」

「同じ肉でも、このお店なら牛の肉ですが、1頭の牛からとれる肉でも取れる場所で区別してるんですよ。」

「なるほどな、ワシらの世界じゃ肉と言えばどこも一緒、せいぜいが頭に近い場所を偉い人が食べるというくらいじゃったの。」

「そうだのぉ、牛や鳥の区別をしていてもその中身の区別はしとらなんだの。」

 ウェイバーがアクア様に相槌を打つ。

「ところでなんじゃが、それじゃとこの肉は何処の部位なのじゃ。」

「これはタンですね。牛の舌になります。」


 特製塩タン。

 タレでなく、塩で味付けしてるので最初に出てくることが多いお肉だ。

 甘い濃厚な脂の乗ったタンは薄くスライスされていて火が通りやすい。

 程よいところでレモン汁に付けていただくのがおすすめだが、しっかり焼いてからカリッといただくのもいい部位だ。


「そうか、牛の舌も食べられるのか。」

 アクア様は感慨深げに肉を見つめて呟いた。

「初めてのべろちゅーが牛とはな。」

「焼き肉はノーカンです。」

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