勇者に物申す。

 俺の叫びは何の役にも立たないと思っていた。

 しかし、奇襲してきた四人の注意を引くことができ、かつ叫びを聞いた兵士が駆け付ける効果をもたらした。


 人間四人は魔王様御はじめとする兵士に囲まれて背中合わせに固まって状況を見定めようとしている。


 その中でも気になるのは俺のことだろう。

 さっきからチラチラ見られている。


 兵士は人間を囲んで逃げ場をなくしている。

 魔王様と伽藍殿は一歩距離を取っている。

 

 いやぁ、この状況作ったの俺だけど、やっぱり俺が出なきゃいけませんか。

 魔王様の顔を見ると「何とかしろよ。」と言ってきている。


 仕方ない、なんかしてみよう。


 デュラン殿の前に出て最初にしたのは。

「俺は魔王様直属のソムリエ、酒井 信之。通称、飲兵衛だ。」

 名乗りを上げることだった。

 うん、挨拶は大事だよな。

「お前らは何者だ。」

 俺が問いただすと、最初は黙ったままだったが、四人の内青い鎧を着たリーダ格の女が警戒しながらも名乗りを上げた。


「私は勇者のアリシアだ。なぜ人間のあなたが魔王にしたがっている。家族でも人質に取られたか。」


「これは俺の意思だ。それよりなぜ君は魔王様の命を狙う。」


「決まっている。魔王こそ諸悪の根源。魔王が人類に戦争を仕掛けたことで民は飢え、苦しんでいる。」


「ほう、魔王様が戦争を仕掛けたから民は苦しんでいると。」


「そうだ。」


「ならばここで戦争を終わらそうではないか。」


「望むところだ。」


「勘違いするな。剣を掲げるな。するのは和平だ。命のやり取りをやめてここで戦争をやめようと言っているのだ。」


「なっ、何を言っている。それでは――」


「それでは奴隷が居なくなるから無理だ。と言いたいのかね。」


「うっ、くぅ――。」


「どうやら君は分かっている様だな。魔王様は奴隷にされた種族を解放されるのが目的。人間族を滅ぼすつもりはない。」


「だが――――」


「だが?聞くが、民が飢えてる中王族や貴族はどうだった。」


「まぁ完全な豚だったね。そっちのオークキングの方がずっと男らしいわ。」

 勇者とは別の神官がそう吐き捨てるように言って熱い視線をデュランに向けている。

 デュランはキョトンとしているがアレはガチだ。

 おめでとう。


「ロビン、そんなことを――」

「アリシアだって分かってるでしょ。私欲を肥やして民を食い物にしているのは王族だって。これまでは亜人種にその負担が行ってただけでそれを解放されたからと税を増やして民を飢えさせてるのは誰か。」

 ロビンと言われた神官の少女に言われて勇者は口ごもる。


「勇者よ、其方の剣には掲げる正義があるようだが、向ける相手が違うのじゃないのか。」

 俺の言葉に勇者は散々悩んだ末に――――剣を収めたのだった。

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