勇者がやって来た。
それは前線の慰問の最中だった。
魔王様について前線の兵士たちの鼓舞にやってきた俺は、前線指揮官であるオーガキングの伽藍殿と、オークキングのデュラン殿を交えた魔王様のお食事の御相伴に与かっていた。
陣地の奥、少し離れた天幕での食事会、その席に招かれざる客人が現れたのである。
深くローブをかぶったオーガ族と思われる男女の四人組。
「誰だ、貴様ら。」
魔王様がそう声をかけたところで四人はローブを脱ぎ捨てた。
「魔王!覚悟‼」
現れたのは人間族だった。
「変装の魔術か。警備は何やってんだ!」
伽藍が素早く武器を取り魔王様の守りに入ろうとする。
それを戦士風の男が双剣を持って割り込みこんできた。
伽藍はその筋肉が示すように重厚な剣を振り回す。
戦士はそれを巧みに双剣でいなす。
その間に青い鎧に身を包んだ長い黒髪の――――
「女!」
俺がそう叫んだように魔王様に向かっていったのは女だった。
きれいに磨かれた鎧兜は神聖さを感じられるような青き輝きを放っていた。
その女は銀色に光る剣を抜き魔王様に斬りかかる。
ギャガギッッッィィィィィィィン!
それを魔王様は何処からともなく取り出した黒い大剣で迎え撃つ。
突如始まった戦闘に今まで食事をしていたテーブルは薙ぎ倒されて料理が地面に散乱する。
こんな時俺に出来ることが無い。
せいぜい今日用意したお酒のボトルを大事に抱えて後ろに下がるぐらいだ。
そんな俺をデュラン殿が前に立ってかばってくれる。
正直足手まとい感が堪らない。
四人の人間の内、後方にいた二人が何やら呪文を唱えた。
まずい、後ろの2人は魔法使いと神官だ。
何やら魔王様に挑んでいる女を援護するための魔法を唱えてるみたいだ。
パァァァァァァァァァァァァン!
俺がおろおろしていたらデュラン殿手のひらから大きな音が響いた。
「イル・ザック・アルザーム。」
左手の拳を右手の手のひらに叩きつけて呪文をつぶやく。
それだけで何かがきしむ音と共に向こうにいた人間2人が弾き飛ばされる。
って、えええええええええええええええええええええ。
デュラン殿魔法使いだったのおおおおおおおおおおおお。
そんな俺の驚きは置いといて、襲撃してきた人間四人はどうやら少数精鋭の奇襲で魔王様を狙ってきたらしい。
魔王様を相手している女と伽藍の相手が前衛、後衛に魔法使いの爺ちゃんと年端もいかない神官の少女。
四対四の構図だが実際はデュラン殿が俺をかばいながら後衛2人を相手にしている状況。
魔王様の実力が実際どれほどのものかは分からないが、このまま何もできないままでいいのか。
悩んだ末に俺がとった行動は――――
「おはよおおおおおおおおございいいまああああああっすううううううう、……じゃない。みんなストオオオオオオオオオオオオプウウウウウウウウウウウウウウ。」
叫ぶことだった。
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