一本締め。
宴もたけなわという言葉もありまして――――と言うと今では時代遅れな言葉だが、異世界では通じるはずもない言葉だ。
しかし、まさに宴もたけなわ。参加者の多くが酔い始めている中ではお開きも致し方ないと思う。
魔王様にそれとなく伝えると頃合いを見計らって宴会のお開きを皆に知らした。
「皆の者、今回は我のワガママでこのような宴を催したが、皆が新たな仲間を良き顔で迎えてくれたこと嬉しく思う。」
魔王様のスピーチに皆がそれぞれ聞き耳を立てる。
オーガの王、伽藍は兵士の肩を抱いて一升瓶片手に聞き耳を立てる。
エルフィンの女王とフェアリーの王夫妻は花園に紛れるように、静かに盃を傾けながら頷いている。
ドワルフ議長のファブニールは杯を地面に置き、腕組みをしながら目を閉じて聞いている。
オークキングのデュランは他の獣人族の族長と共に酒を飲みつつ耳を傾けていた。
ポロ~~~~ン。
どこからともなくハープの音色が響き、ドライアドの女王も聞いているのが分かる。
そんなみんなを俺は魔王様の傍に立って見渡していた。
そしたら魔王様に背中を押されて皆の前に出された。
正直こんな宴会でのスピーチ経験なんてなかったから、緊張で喉がカラカラになる。
それでも、俺はごくりと喉を鳴らして皆に伝えたいことを伝えようと試みる。
「皆さん、今日は自分の紹介の為の宴会に御参加ありがとうございます。しかし、自分はこの宴会にもう一つの意味を持っています。」
それは何か?
地元奈良の特産品を異世界で流行らすためか。
その野望も確かにある。
しかしそんな個人的な感情だけじゃない。
もう一つは一致団結だ。
この世界の人間は俺が知る限りほうっておいていいモノじゃない。
奴隷制の廃止、人族の平等、基本的人権の尊重。
現代日本に生きてた俺が異世界に持ち込めるのは酒だけじゃない。
文化だ。
俺はこの世界に酒と文化を広めて現代日本より良い国を創りたい。
障害者という理由で社会からつまはじきになっていた俺だが、この世界はそれ以上にひどい。
だから、この世界で酒を持ち込める俺が権力を手にしたのだからやりたいことは一つ。
種族なんかで違いのある人たちが平等に暮らせる差別のない国作り。
今は戦争のさなかだがいつか叶うと信じて俺はこの使命を自分に課す。
俺は皆に一本締めの説明をした。
皆が心を一つにするための儀式だと必死に説いた。
その心は伝わったのか、皆が俺の目を見いてくる。
隣を見れば魔王様もうなずいて俺を見ている。
「では、不詳、酒井 信之、通称ノンベェが音頭を取らせていただきます。」
いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、
パァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
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