ドライアドの甘露。

 オークの王デュラン殿に次いで多くの獣人族の長達に挨拶をした俺は少し疲れたので木陰で一休みをした。


 ポロン~♪


 そしたら頭の上から綺麗なハープの音が聞こえて来た。


「?」


 怪訝に思い頭上を見い上げると。


 ポロロ~ン♪ポロ~~~ン♬


 花が咲いた木の高い枝に1人の少女が腰かけていた。

 彼女は緑色の薄い服を纏ったはかなげな存在で、手にしたハープが音を立てなければ存在に気が付かなかったかもしれない。


 緑色の髪に同じくみどりの瞳をした存在感の薄い少女。

 彼女はハープを一鳴らしするとふわりと枝から飛び降りた。


「あっ。」

 

 と思い急いで真下に向かうが、一向に落ちてくる気配がない。

 上を見上げれば、フワリフワリと彼女が綿毛のように揺れながらゆっくりと降りてくる。

 その間も何度かハープを優しく鳴らしては薄い笑みを浮かべていた。


 しばし見とれながら待っていると彼女は俺の目線の高さまで降りて来た。


「ふふ、お疲れじゃないですか?」


 彼女に見とれていたがその言葉で「ハッ」となって身を引き締める。

 彼女はゲストの中でも特別な存在だったからだ。

 その容姿の特徴は魔王様から伺っていたが、宴会には現れないかもしれないとも言われていた。


 それがドライアド族の女王「エウレカ」様だ。


「私は酒井 信之、ノンベェと――――」

「しーーーーーーーーーー。」


 名乗りを上げようとした俺の唇に彼女は人差し指を当てて黙るように仕草をする。


「堅苦しいのは嫌いよ。あと、貴方のお名前はちゃんと言いていたわよ。」


 そう言われて黙る俺の前にカップが差し出される。


「良かったらワタシから一杯。疲れた体にいいわよ。」

 

 差し出されたカップには並々と透明の液体、花の香りのする飲み物が注がれていた。


 これはドライアド種が気に入った相手に呑ませる甘露であろう。


 ドライアド種は人間に横暴に扱われはしなかったが、さしとてそれを許容は出来ずに遠い昔に姿を隠したモノたちである。

 人よりも精霊に近く、エルフィンからは神のごとく敬われているらしい。


 彼女らが魔王様の配下に入ったわけでは無いにしても、異人同盟のもとでは魔王に大義ありと示す一存になっており、また、補給線の維持に大いに働いてくれているために同盟内では確かな存在感を持っている。


 俺は差し出された甘露を一気に飲み干す。

 そしたら体にスーと行きわたり疲れが取れていった。


「ふふふ、その顔、ワタシの体液はお気に召したみたいね。」


「ぶほっ!」


 おい、

 ドライアドの甘露は体液ってのはマジか。

 エウレカさんは笑っていらっしゃるけど嘘かまことか分からない。


「ふふふふふ、いつかワタシの甘露もお酒にしてもらえるのかしら。まぁ、それはともかく今度ゆっくりお話ししたいわね。」


 そう言って何処かへフワリと飛んで行かれた。


 ……体液ってマジ?

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