オークの紳士。
「すみません。挨拶が遅れました。自分は酒井 信之、愛称は飲兵衛というものです。」
「いえいえ、ご丁寧にどうも。あいさつ回りと言っても順番が出来てしまうのはしょうがない。私は王女様が相手してくださったものですし、お酒もゆっくり楽しませてもらいました。」
最後に声をかけたのはオークキングの「デュラン」殿だ。
俺が他の来賓の方に挨拶していた間アクア様がお話し相手になっていてくれたのだ。
「オークのデュラン、奴はとても気が利く。挨拶回りをするなら最後はあ奴が良いじゃろう。」
という魔王様の言葉に従ったのだが、なかなか紳士的な人だ。
俺が挨拶すると居住まいを正して会釈をしてくれた。
オークとは人間に最もひどい扱いを受けていた種族であるにもかかわらず人間の俺に柔らかい物腰で相手をしてくれる。
その声はキレイな子安〇人ヴォイスで安心感がある。
とはいえ、あのてら子安ほどの方でもオークは演じたことないんじゃないかと思われるほど最初は声に違和感を感じた。
オークは豚の亜人と多くのファンタジーで扱われているが、この世界のオークは確かに豚に似てるけど、まだ人よりだと思う。
オーガが細マッチョならオークはアメリカンレスラーと言った感じの体形だ。
身長は低めで胴回りが太い、だが、脂肪でお腹が垂れさがるのではなくて、しっかりとした筋肉で太ましいお方だった。
手足も蹄では無くてちゃんと5本の指が生えた手足だ。(しかしなぜか脱いである靴の意匠が蹄みたいだった。)
耳も頭の上でなくて顔の側面についている。それでも、大きくて肉厚ではあるが。
体毛は薄めで、体臭がフローラルなところの他に瞳がつぶらなところも愛嬌があっていい。
そしてオークの一番の特徴、頭の立った鼻も大きくて印象的だ。
デュラン殿は俺に正対すると改めて名乗りを上げた。
「オーク族が王デュランにございますれば、魔王様の配下として仲良くしていただけると嬉しゅうございます。」
この腰の低さは人間族に虐げられたからだろうか。
否、
このデュラン殿から感じる気迫ははまごう事なき戦士のソレ。
むしろ俺ごときが対等であっていいのだろうかと心配になる。
いや、いいのだ。
分野は違えどお互いに魔王様に認められて仕えるものなら、対等に接するものだろう。
俺はデュラン殿の隠れた気迫に呑まれないように頭を同じくらいに下げてからお酌を申し出る。
デュラン殿のお気に召していたのは梅乃宿の「あらごしゆず酒」だった。
これは果実酒で飲んだ時に舌や喉に果実の肉粒のような感触が味わえる奈良の名産果実酒だ。
飲み口もすっきりしていて、酸味とほのかな苦み、それによって彩られるわずかな甘み、それが広い世代に人気を博しているお酒だ。
デュラン殿は俺のお酌で口に含んだお酒をじっくりと口の中で転がして、その香りを楽しんでから嚥下した。
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