日本酒の旨さとは、

「エルフやフェアリーが好む甘露は若葉にたまった朝露と聞きます。して、このお酒と言うのはどのように採取されるのですか。」


 ドワーフのファブニール殿はグラスを開け次のお酒を自ら注ぎながら訪ねて来た。


「この清酒は米から作られております。」

「コメ?寡聞にして聞いたことが無い物だが。」

「麦とは異なりますがそれに似た穀物のことです。」

「ほう、麦に似た、それからこのような汁が搾れるのか。」

「いえ、米は我が故郷の主食になりますれどそのままでは酒にはなりませぬ。コメに何工程もの手を加え水に溶かして搾り取ることで清酒は得られます。」

「セイシュは……か。さすれば他の作り方もあるということだな。」

「焼酎ならば麦や芋からも作られます。麦を使えばまたまったく別のお酒になります。果実からも多様な酒を、動物の乳も酒にすることもあります。」

「なるほど、かように酒とは奥深くなるものだと思うが、いかがかな。」

「はっ、おっしゃる通り。酒はそれだけでも奥深きもの、加えて肴との相性も重要です。」

 そう言ってる傍でファブニール殿はトロットロに焼けたナスをほおばりながらまた大吟醸を飲む。


 う、

 饗応役なのに見てたら食べたくなってきたじゃん。

 本当にうまそうに食べてくれるな。


「また、お酒にはカクテルと言うお酒を混ぜ合わせて新しいお酒を創る趣向もございます。」

「はっはっは、ソレはまことに遊びごたえのありそうな話だな。ワシが思うに、ソレは味だけでなく見た目にもこだわるものだろう。」

「おっしゃる通り、物によっては専用のグラスを用意するものもございます。」

「ふむ、ならばワシも作ってみたいものじゃが――――。」

「残念ながら、この世界では酒造りはできないようで。」

「何でじゃ?」

「はっきりした理由は分かりません。もしかしたら酒の神が不在なのかも。」


 この世界でもパンはある。

 ならば酵母菌なども存在するはずだが、本来酒はほっといても出来るもののはず、それが出来ないならば何かしら超常現象的なところに理由があるのかもしれない。


「ところで、この原料になるコメは食べられるのか?」

「はい、今回も護衛につく兵士の為の食事として用意してます。」

「ならばそれもくれ。」

「よろしいので、お酒の味と被りますよ。」


 お酒の味とはそもそも米の味なのだ。

 米を嚙んでいたら少しずつ甘く成っていく物なのだが、その成分がアルコールのもとになるのである。

 つまり、コメを嚙みしめたヤツを発酵させたのが清酒の味なのだ。


「よい、食べ比べてみないことにわな。」

 そう言ってファブニール殿はナスの他にも七輪で焼いたキノコなんかを食べながらお酒とお米を食べ比べし始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る