ドワーフの興味
エルフィン、フェアリーのお三方は饅頭を肴に酒宴を楽しんでくれている。
今では双方の花見スポットに話の花が咲いている。
正直、その話に興味がない訳ではないのだが――――俺はそこを離れるしかなかった。
俺は魔王様よりこの宴を任された者。
話を通しておくべき方は他にもいらっしゃるのだ。
「ふぉおおおおお、すんばっらし~~~~~~。」
顔を赤らめた髭面のおじさんの歪んだ顔が目に入った。
そのおじさんは顔の高さに持ち上げたグラスを覗き込んで感嘆の声を上げているのだ。
その声はエルフィン達のもとに行く前から聞こえていた。
本日何度目か分からない言葉だ。
彼の名はファブニール。
ドワーフ氏族議会の最高議長だ。
ドワーフは人間の勢力から遠く、また氏族間の考え方も異なっていた為、魔王軍によって解放された後は議会制を取っているらしい。
そして、この宴には最高議長の彼がやって来たわけだ。
魔王様より与かった財宝を売ったお金で買った最高級のバカラのグラス。
それに大吟醸をなみなみと注いで、目の高さまで掲げて、じっくりと眺めてから一気に飲み干す。
それを何度も繰り返しているのだ。
普通の人なら酔いつぶれてもおかしくはない。
しかしそこはドワーフなのだろう。
ファンタジーではお酒に強いとされるドワーフ。
それはこのお酒の存在しない世界でも通用するものだったのだろう。
彼が一番酔っているのは景色だろう。
最高級のグラスと最高級の日本酒が映し出す景色を覗き込んで、そこに酔いしれているのだろう。
「ファブニール殿、そのグラスお気に召したでしょうか。」
「あぁ、ほれぼれするよ。」
「よろしければそちらのグラスをお土産にお持ち帰りなさいますか?」
「ぶふぉ!何を言っておる。このような素晴らしい物、そんな簡単に他人にやってよい物じゃないだろう。」
酒を吹き出しかけながらファブニールは驚いている。
確かにそうだ。
彼の言う通り、バカラのグラスは簡単に他人にやれるほど安くはない。
日本円でも1万を超すものばかりだ。
だが、――――だからこそ贈答用としてふさわしい。
魔王様から予算をもらっているのでこういったものにはケチを付けずにやりたい。
「グラスだけではなくファブニール殿が気に入ったご様子のそちらのお酒もご一緒に。」
「大盤振る舞いじゃな。」
「それだけ魔王様は自分を気に入ってくれたということ。それを皆にも理解してもらいたくこのようにふるまっているのです。」
「ならばお言葉に甘えよう。ワシはこのセイシュと言うのが気に入った。見た目はショウチュウと変わらないのに口当たりが全然違うものだ。」
「どういったところが良かったですか。」
「柔らかさ――と言ったころかの。喉を刺激するのも悪くはないが、ワシは優しく喉を通るところが良い。そして確かな香り。果実のような甘さと山の頂にいるような爽やかさ、そして水のような見た目に反してしっかりとした味わいが楽しい。」
と高評価。
やたがらす酒造、「吉野千本桜 純米大吟醸」、異世界の匠ドワーフの心をしっかりつかんだようだ。
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