意外な肴

「まずは一献。」


 そう断って俺はお三方の杯に桃色のお酒を注ぐ。

 彼女たちはその注がれた酒をまずは目で楽しんでから

口を付けた。

 お三方ともお口に合った様子で顔をほころばせる。


 俺はそこにすかさず皿を差し出す。


「肴にはこれを試してみてください。」


 それはお酒の肴としてのイメージはあまりない物だろう。

 しかし、この世界の人達はお酒の知識が全くないので、そのそぐわない物にも先入観を待たずに試してもらえる。


「まぁるくて、黒や白、赤や緑のものが色々御座いますね。なんですかこれは。」

 オレが差し出した皿に山と積まれたそれを見てテュール様が首を傾げる。


「これは饅頭というものです。」


「マンジュウとな。いかな食べ物でありますか。」


「一言で申しますと、お菓子で御座います。」


「わぁ~~~い、お菓子大好♡。」

 ティファニア様は俺が説明したとたん文字通り饅頭に食いついた。

「モグモグ。う~~ん、甘さはなんと言うか……少なめ?でも、口当たりはとてもいいよ。」

 ティファニア様の感想を聞いてオベイロン王とテュール様も饅頭を口に運ぶ。


 酒に甘いものは邪道だ!


 と、言う人もいるが、ここではそんな常識はない。

 だからこそ最初に勧めておきたい。


 酒には塩辛い物だけじゃない。

 甘いものも合うんだ。


 という訳で、今回饅頭を用意した訳だ。


 饅頭は、実はこれも奈良の名産なのだ。

 今や全国どこでも「〇〇饅頭」なんて言って売っているが、日本の饅頭は奈良が発祥なのだ。

 元は中国の肉が詰まった饅頭を日本にやって来た「林浄因リンジョンイン」という僧が、肉食を禁止している日本文化に合わせて、小豆を使った餡を詰めた饅頭を作ったのが始まりである。


 この饅頭発祥の地は近鉄奈良駅を降りてすぐにある「漢國神社かんごうじんじゃであり、その境内には饅頭の神様として林浄因を祀った林神社もある。

 漢國神社は町のビルの合間に会って分かりづらいが、通向けの観光スポットでもある。


 そして、今回用意したのは和菓子の元祖と呼ばれる奈良饅頭に因んだ、「千代の舎 竹村」さんの奈良饅頭である。


 この饅頭、黒餡と白餡の二種類があり、お味の方は素朴。

 饅頭本来の味です。って言ってもいいくらいです。


 だから饅頭は奈良の名産品なのです。

 なんで奈良はこう食べ物の名産アピールが少ないのやら。

 

 他にも彩をそろえて用意しました奈良の饅頭たちはお三方の口に進んで行ってくれる。


 ともあれ、甘酸っぱいリキュールに甘さ控えめの饅頭は以外によく合います。

 というか、

 お酒とお菓子はよく合うんです。

 京都や奈良などの観光地のお土産屋さんなんかでは日本酒のソフトクリームを扱っているところもありますしね。

 分かりやすく言うとイチゴ大福みたいな感じです。

 甘酸っぱさとほのかなあんこの香ばしさが美味しんです。


 てか、

 イチゴ大福も奈良発祥ですし、ビニールハウスが発明されるまでは奈良県がイチゴの生産日本一だったんですから。

 大粒のブランドイチゴも奈良が発祥なのに、――――なんで奈良は食べモンのアピールが下手なんでしょうか。


 とりあえず、個人的に地元奈良の特産品を異世界に流行らせてやるつもりだ。


 ちなみに、「さくらキラキラ」「さくらさらさら」に入ってるさくらの花は食べられます。

 塩漬けされたモノで、そのままもいいけど饅頭に乗せてカプリっと行くのも乙なものですよ。

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