エルフィンとフェアリーにおススメは

 エルフィンから提供された花見の会場は、淡い青い花が咲く木々と地上に真っ赤な大輪の花を咲かせる植物が自生する、エルフィンたちにとって春の訪れを祝う祭りの場所でもあった。


 そこに今、俺が持ち込んだ七輪で油揚げやするめなんかが焼かれて、香ばしい匂いに包まれていた。

 ちょっと罰当たりかな、と心配する中、魔王様とアクア様が自ら油揚げを焼きたいと申し出てきて場所を奪われた。

 突如手が空いた俺は会場を見回して――


「少し宜しいですか。」

 俺はある3人のところにお邪魔させてもらった。

 そこにいたのは――


 エルフィン女王の「テュール」。


 フェアリー族の王、「オベイロン」。


 オベイロンの妻、「ティファニア」。


 この森に似合う3人ではあるが、酒と煙が舞う宴会場には不釣り合いな線の細い人達だ。


「何ようですかノンベェ殿。」

 テュールから少し冷たいまなざしが言葉と共に向けられる。

「いえ、お酒は気に入ってもらえたかと――」

「ええ、悪くはないですね。でも、ワタシ達には少しつらい物ですが。」

「やはり、すみません、お3方には酒精が強すぎたようです。」

「シュセイ?」

 俺の言葉に顔を赤らめたオベイロンが食いついた。

「はい。酒には酒精という精霊が宿って居まして。」

「シュセイ、酒精か。なるほどそういう意味か。」

「はい、その酒精の働きが強すぎると、お酒に慣れない人にはつらく感じるものなのです。」

「なるほど、ワシらやエルフィン族が火山地帯に住むのがつらいのと同じじゃな。」

 オベイロンはそう納得してくれた。


「なるほどな、先ほどから頭の中に働いていたのはその酒精の力か。」

 テュールは頭を振りながら訪ねて来た。

「この酒精、おぬしの世界ではありふれたモノか。」

「モノの強弱はあれど世界中にあります。」

「なるほど、異世界人と言うのも納得だな。」

「でわぁ、ノンベェ様はぁ、お酒の精霊さんのぉ、御使いなのですねぇ。」

 ティファニアにそう言われて俺は少しあっけにとられた。

 だが悪くない。

 酒好きとして、酒の御使いと呼ばれることは嬉しい以外にないではないか。

「うふふふ、まんざらでもないようですねぇ。」

 ティファニア様は俺の顔を見てそう間延びいした声で笑っていた。


「コホン。少し話は変わりますがお3方にお勧めなお酒があります。」

 俺はそう言って二つのボトルを取り出した。

 一つは「さくらキラキラ」。エルフィン女王テュールに差し出した。

 もう一つはテュールに差し出したのと同じようなものだが、体の小さいフェアリー族に合わせた小さいボトルの「さくらさらさら」である。

 どちらもやたがらす酒造のお酒で、さくらの花びらが漬けられたリキュールである。

 どちらも甘酸っぱくて、お酒が強くない人や女性なんかに向いてるお酒である。

 見た目もピンクで可愛らしい。


「きゃぁ~~~。お花が瓶の中で咲いているわぁ。」

 ティファニア様が目をキラキラさせながら瓶の周りを飛び回る。

「こちらの花は自分の故郷のさくらという花です。春に咲き、短い間に散ってしまうことから儚さの象徴として親しまれています。」

「へぇ~~~。もしかして、このさくらを眺めながらするのがお花見ってやつじゃないの。」

「多くの場合はさくらで行いますが、他の花でも花見は花見です。」

「ふ~~~ん、そっかぁ。」

 意外と鋭いなこの妖精さん。

「さささ、まずは一献試してください。」

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