オーガの男伽藍の絡み酒

「がははははははははは、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 オーガ族の王、伽藍は酒を飲むなり大笑いをして叫び声を上げた。

 ビリビリビリと空気を震わせる叫び声に俺の体は身の毛がよだつ。


 伽藍。

 彼はオーガ族の王であり、人間を超える背丈と筋骨隆々な赤い肌をした男だ。

 俺の元居た世界日本では赤鬼と呼ばれた者たちはまさにこのような姿だったのだろう。

 態度はどこぞのヤクザの兄貴分かと思うような豪快な人だ。


 その人が「がはははは」と鋭い歯を見せながら大笑いして俺に近づいてくる。

 魔王様を挟んですぐの場所までやって来た伽藍は、俺や魔王様より頭二つ分ぐらいの高さから見下ろしてくる。


「おめぇさん、名前は何でい。」


 何をされるのか――と普通は怯えるところだが、俺は酒の力を信じていた。

 だから怯えることなく毅然と名乗りを上げることが出来た。

「氏は酒井、名は信之。皆に呼ばれるあだ名は飲兵衛だ。」


「なある程な、氏は酒井で、あだ名はノンベェね。」

 静かにつぶやくと。

「おう!おめえら。異人同盟が先駆けのオーガ族の王伽藍が試してやったぜ。これは魔王様が重用に値するもんだと。」

 伽藍はそういって他の者達に呼びかけた。

 その言葉は皆に届き大きな歓声を上げることとなった。


 花見の成功がここで決まろうとしていた。


 その後、魔王様から託された部下たちに酒の振る舞い方を教えていたので彼らが手分けしてお酒の酌を始めたのだった。


「ガハハハハ。この酒というもの。最初に見た時はただの水かと思うたが、よく見ればエルフィンのネェちゃん達が好む甘露みたいに柔らかいからてっきりそれかと思ったりもした。だがなぁ、そう思って飲んでみればなんてこったい、これが喉を焼くかと思うくらいの突き刺さる刺激と来たもんだ。たまげたねぇ。」


 特に俺の周りは魔王様とアクア様、そして各種族の代表で酒宴となったのだが、いやはや、早くも伽藍殿が出来上がっていらしゃる。


 伽藍殿に提供した酒は、故郷の日本では一番の花見の名所と知られる吉野の地酒、やたがらすの吟醸粕ぎんじょうかす 焼酎だった。

 花見と言えば吉野、吉野の酒といえばやたがらす。と言うことでこの花見にはやたがらすのお酒を用意していたのだ。

 これに吉野杉のます、よく大河ドラマなんかでおこめを測るのに使う四角いアレ、それで飲んでもらった。

 吟醸清酒のような香りに吉野杉の青い香りが混ざり、焼酎のキレも相まって飲みごたえ抜群だ。


「なんだ、こっちの黒いのも酒か。」

「あ、それは醤油です。飲み物じゃなくて調味料です。ほら、こっちの肴に少し掛けて食べてみてください。」

 そういって、俺はこれも奈良の特産である油揚げを焼いたものを渡す。

「ほう、この肉に醤油というたれをかけて食うのだな。どえどれ――――旨めぇえええええええ。」

「そこですかさず酒をきゅっと。」

「おぉとっと、くうううう~~~~~。合う。こいつは旨いぜ。」

「ちなみにその油揚げ、肉と思われていますが大豆という豆で作った食べ物です。」

「なんと、これが肉では無くて豆だというのか。ほ~う、お前の故郷は食いもんがすごいんだな。」

「ありがとうございます。」

 俺の故郷、日本は食文化にかけては世界一と自負している。それが異世界の王様に認めてもらえて嬉しいものだ。

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