エルフィンの花園

「エルフィンの花園だ。」

 俺はアクアから提示された花見の予定地の候補を聞いて眉をしかめた。

「おぬしは異世界人だから知らんのだ。エルフィンの花園の素晴らしさを。」


 エルフィン。

 現代日本人にはエルフと言った方が伝わりやすいだろう。

 森に住む長命の目めうるわしゅう種族である。

 耳が長くとがっていて弓矢や精霊術に優れた種族である。

 しかし、この世界のエルフィンはその美しさ故に、人間族に性奴隷として扱われてきた歴史が長い。

 その為、魔王様の志には早くから共感を持っていたらしいが、いかんせん、彼等の住む地域は人間族の支配下にあり長らく解放できなかったという。

 そんな彼らが、この度の宴会を自国内で行うことを許容できるのだろうか。


「逆にじゃ、逆に考えるのじゃ。かのエルフィンは人間族から解放されて久しい。その上、今も人間族と国境を接しておる。じゃから、魔王軍の精鋭を送って酒宴を開けば彼等にも安心が生まれる。」

「逆に人間族を刺激しないか?」

 この時完全に俺は魔族側に感情移入して会話している。正直人間だからと味方するような価値観は持っていない。

 他民族を奴隷として扱う民族は御免である。

「戦線は今膠着状態じゃ。虎の子の精鋭部隊を集めたところに吶喊するほど馬鹿では無かろう。」

 それもそうだが。

「逆に防御が薄くなったところを攻められたりはしないか。」

「今回の酒宴は前線への慰問も兼ねておる。出張るのは後方待機の精鋭じゃ。穴はあかんよ。そっれに、」

 それにと彼女は続けた。

「情報漏洩があれば真っ先に疑われるのはおぬしじゃ。」

「それが一番怖いんじゃん。俺は軍の機密には一切触れてないんだけど。」

「クカカカ、残念じゃが、此度の花見は成功しようと失敗しようとおぬしの関与が決まっておる。」

「……それなら成功させましょう。」

「そう来なくてはのう。」


 そうと決まれば調べないといけないことがある。

 第一に参加人数だ。

 直接酒宴に参加する人数も把握しなければならないが、酒宴の間警戒に当たる警備の兵にも気を付けねばならない。

 偉い人が宴会してる中を腹をすかした兵で守ろうなんて馬鹿げた話だ。

 ゲストに食わせるものより護衛に付くものの腹を満たしてやる方が先だと思う。

 その旨を魔王様に具申したところこころよく聞いてくれた。


「して、何か食事の案はあるのか。」

「やはり豚汁ですかね。」

「ふむ、必要なモノがあったら遠慮なく言え。」

 そう言っていたので必要な食材を集めた。

 集めたのだが、この世界にはお酒がないだけじゃなく味噌も無かった。

 そもそも発酵食品がないのかもしれない。

 という訳で俺は日本で味噌を買いあさることになった。


 後で知ったことっだが、魔王軍にはオーク族も参加していて、

俺は彼らに豚汁を勧めてしまったわけだ。

 しかし彼らは豚と誇り高きオーク族を一緒にするなという考えで、平気で豚肉を食べていた。

 曰く、出されえたモノにケチをつけるほうが卑俗であるという。

 どっかの自称宗教国家に聞かせてやりたいセリフだ。


 だが、花見にはまだまだ必要なモノがある。

 気を引き締めていこう。

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