4.
突然変なことを聞いちゃって、ブロンシュさん、おどろいちゃったみたい。きょとんと水色の瞳を丸くさせた。だけど、すぐに、にこりとほほえんでくれ。
「そうねえ。そういう魔法もあるけど……」
「時間を止める魔法など、おまえのような落ちこぼれ魔女には到底無理だ。あれは、上級魔法だ。百年早い!」
と、横からノワールが口をはさんだ。
そっか。時間を止めるのは、むずかしいんだ。そうだよね。だって簡単な魔法だったら、きっと誰もが使っていると思うもん。
わたしには、時間を止められない。止められないなら、つなぐしかない。その時間をつなげられる可能性を、手段をわたしは知ってる。
だけど、わたしはこわい。もしうまくいかなかったら? わたしの勝手な勘違いで、柊くんに拒絶されちゃったら?
そんな考えがジャマをして、わたしは踏み出せないでいる。
でも、できるなら本当は……。
「あの。ブロンシュさんには、しないで後悔したことはありますか?」
「後悔していること? する後悔と、しない後悔、どちらが良いって話かな?」
ブロンシュさんには、わたしの考えがお見通しみたい。魔女だからかな。わたしは小さくうなずいた。
ブロンシュさんは、
「そうねえ」
と、空気混じりの声を出し。
「それは、私にも分からない。やって失敗しちゃったら、やらなかった方が良かったって思うだろうし、それでしなかったら、後でやっていたら良かったなあって後悔するだろうし。誰しも時折迷うものね。
でもね、一つだけ言えるのは、しない限りは得られるものはないってことかな?」
得られるものはないーー。
ブロンシュさんの言葉が、わたしの中でゆらゆらと漂う。
ブロンシュさんは、大きくうなずき、
「ええ。しなければ、確かにいつまでも夢を見続けることはできるわ。あの時、ああしていれば、もしかしたら、こうなっていたかもしれないーーって。
でもね、それはあくまで夢で。夢は夢のまま、いくら頭の中で想像しても決して現実にはならないわ」
「それにね、」ブロンシュさんは一度区切ってから、
「もし椿ちゃんがその迷っていることをがんばってやってみようと思うなら、その時は、私、応援するわ」
帰りがけ、ブロンシュさんはフロランタンのレシピをくれた。今度のクラブで作ってみよう。ブロンシュさんみたいに、おいしくできるかな? 柊くん、喜んでくれると良いな。
柊くんが転校しちゃうまで、あと一週間ほど。その間に答えを出さないと……、ううん、いやでもその時はやってくるのだ。それまでにわたしは決めないといけない。
そんなことを考えながらブロンシュさんの店を後にしたわたしは、来た道をいつもよりゆったりとした足取りで引き返していった。
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