2.
冬になって葉を落とした、さびしげな木々にかこまれている小道を歩いて行くと、次第に道が広くなっていき。もう少し歩くと、一軒の小さな建物が現れた。
その家は白い石造りの壁に、紺色の屋根をしていて西洋風で。周りの木々のおかげもあってか、なんだか外国の風景みたい。家の前に置いてあった立て看板には、『カフェ・プランタン』と書かれていた。
「カフェ・プランタン? カフェってことは、お菓子もあるのかな?」
どんなお菓子が売っているんだろう……!
わたしは迷子になっていたことなどすっかり忘れ、そのお店に夢中になっていた。この町には生まれた時から住んでいるけど、こんなかわいいカフェがあったなんて全然知らなかったな。一体いつからあったんだろう。
どんなお店なのかな。あの扉のガラス窓から、お店の中が見えないかな?
わたしは足音を立てないようゆっくりと扉に近付いて行くと、そっとガラス窓から中をのぞきこんでみた。ううん……、暗くて、よく見えないな。とっても気になるのに……!
どうにかして中が見えないかなと奮闘していると、
「あら、お客様?」
と、後ろから声をかけられた。
おどろいたわたしは、思わず、
「きゃあっ!?」と、変な声をもらしてしまう。
びっくりした顔をそのままに、振り向くと、そこには女の人が立っていた。
その女の人は、二十歳くらいかな。灰色の髪に、青空みたいに澄んだ水色の瞳で。この田舎町には似合わないような、とってもきれいな人だった。
女の人の足元には、黒ネコもいた。この人のペットかな? だけど、そのネコは……、失礼だとは思うけど、つり上がった瞳をしていて。あまりかわいげがなかった。
女の人は、
「ごめんなさいね、ちょっと出かけていて。すぐにお店を開けるわね」
どうやらお店は閉じていたみたいで、女の人はドアノブに下がっていたプレートをひっくり返して、『CLOSE』から『OPEN』に変える。それから扉を開け、わたしに向かって手招きをしてくれた。
だけど、わたしはこの時になって、ようやく大事なことを思い出した。そう、わたしはまだ学校帰りな上に、迷子だったんだ! それに、サイフだって持ってない。せっかくお姉さんがお店を開けてくれたのに、これでは何も買えない。
どうしようと悩んでいると、
「おい、ブロンシュ。そういやあ、バレはどこに行った?」
と、下の方から声がした。低くて男の人の声っぽいけど……。声のした方に視線を向けるけど、そこにはさっきの黒ネコしかいなかった。
あれ、おかしいな。確かに聞こえた気がしたのに。でも、ネコがしゃべる訳ないよね。
そんなことを思っていると、
「バレならいますよ。後ろに……って、あら、あらら!?」
女の人が困った声を上げたのと、ほぼ同じくらいだったと思う。何かがわたしのおでこに、スコーン! と、ぶつかった。
いったーい! 一体何がぶつかったんだろう。
わたしは赤くなったおでこを手でこすりながら、辺りを見回す。すると、目の前に竹ボウキがいた。いたって表現したのは、だって。その竹ボウキはまるで生き物みたいに、ひとりでに動いていたんだもん。わたしの周りをくるくると、踊っているみたいに回っていたの。
「えっ……、えっ?」
なに、これ。どうなっているんだろう。もしかして手品かな? ホウキに見えないテグスでもついていて、誰かが遠くから動かしているのかな。
そんなことを考えていると、
「こら、ブロンシュ! さっさとバレを止めろ。目ざわりだ」
「やっぱりネコがしゃべってる……」
わたしの全身から、するすると力が抜けていく。さっきの話し声も気のせいではなかったみたい。このネコ、人間の言葉を話せるんだ。
女の人は女の人で、
「こら、バレ。遊んじゃダメでしょう!」
と、動き回っているホウキを追いかけ回している。
自由に動くホウキに、人間の言葉を話すネコ。そんな不可思議な光景に、ちっともおどろいていない女の人。
なんだろう、この組み合わせは。ここは、まるで魔法の世界みたい。だとしたら、この女の人は……。
「魔女……?」
わたしのつぶやきは、女の人に聞こえていたみたい。
「ええ、そうよ」
無事にホウキをつかまえられた女の人は、にっこりと、わたしに向かってほほえんだ。
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