7.

 そんなこんなで、アタシは今日一日、月島さんのフリをすることになった。だけど……、それがとっても大変だった!


 そりゃあ、始めはとってもワクワクしたよ? だって、願っていた通り、あの月島さんになれたんだもん。ずっと憧れていたスカートだってはくことができたし。だけど、そのドキドキも、時間がたつにつれて、どんどん風船の空気みたいにしぼんでいった。


 だって、月島さんは、おしとやかで物静かで、それから頭も良くて。だから、教室の中で大きな声で騒ぐことはできないし、算数の授業で当てられた時にうまく答えられなかったら、先生に、

「月島さん、具合でも悪いの?」

って、すごく心配されちゃった。


 給食の早食いもできないから、おかわり競争にも加われなくて。今日のデザートは、アタシが大好きなプリンだったのに。食べたかったなあ、残念。プリンはアタシの次に早食いが得意な、鶴岡くんの手に渡っちゃった。


 だけど、一番つらかったのは昼休みだ。いつもみたいに思い切り体を動かせなかったのは、本当につまらなかった。


 それだけじゃない。月島さんが仲良くしているグループの子たちの会話に、アタシはちっともついていけなかった。何を話しているのか、ちんぷんかんぷん、全然分からないんだもん。


 好きなアイドルの話とか、ファッション雑誌の話とか、そんなのばかりで。アタシが大好きなゲームやスポーツの話は、ちーっとも出てこないの。だからアタシは適当にあいづちを打って、どうにかその場をやり過ごした。


 一方の、アタシのフリをしている月島さんは、うまくアタシを演じていて。なんだかとっても楽しそうだった。


 昼休みもいつものアタシみたいに、グラウンドでみんなでサッカーをしていて。そんな月島さんを、アタシは教室の窓から見ていることしかできなかった。ーーうらやましい、そう思いながら。


 あーあ。せっかく夢にまで見ていた、月島さんになれたのに。月島さんになって分かったことは、アタシには月島さんは向いてないということだった。


 月島さんの中はきゅうくつで、息苦しくて。なんていうのかな、アタシがアタシじゃなくなっちゃうっていうのかな。今までのアタシを否定しているみたいだった。


 何より、つまらないーー……。そう感じたの。


 もしアタシがこのまま月島さんのままでいたら、もしかしたら鷹城くんはアタシのこと、好きになってくれるかもしれない。けど、その前に、アタシはアタシをいやになりそうで。


 月島さんになりたい。


 それは、アタシ自身が望んだことだ。だけど、アタシは、アタシにもどりたいーー……。


 午後の授業を受けている間も、アタシの中で、その思いばかりが募っていった。早く放課後になってほしい、そう、心の中で祈りながら。

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