4.

「ごめんなさいね、バレがいたずらをして。おわびに、お茶とケーキをごちそうするわ」



 ブロンシュさんと名乗った魔女のお姉さんは、色とりどりのケーキが並んでいるショーケースを指差して、好きなものを選んでと言ってくれた。


 バレっていうのは、さっきアタシにいたずらをしていた竹ホウキの名前で。やった、ラッキー! なんて思っているわたしのとなりで、だけど月島さんは申し訳なさそうな顔をしていた。



「ふふっ、いいのよ。さあ、遠慮しないで」



 ブロンシュさんにうながされ、アタシはショーケースの中をのぞく。ううん、どれにしようかな。どのケーキもとってもおいしそうで、迷っちゃう!


 だって、ケーキといえばの定番ショートケーキは、真っ白な生クリームに赤いイチゴのコントラストがとってもきれいだし、しっとりとやわらかそうなチーズケーキは、口当たりが良さそう。


 フルーツタルトは、イチゴにオレンジ、ブルーベリーといったフルーツがたくさん飾ってあって。きらきら光っていて、まるで宝石箱みたいで捨てがたいし、それから、それから、ガトーショコラに、ミルフィーユだって。どれも負けてない。


 この中から一つだけなんて……!


 アタシがいつまでも悩んでいると、ブロンシュさんが、

「それなら、タルト・タタンはどうかしら?」

と提案してくれた。



「タルト・タタン?」



 なんだろう、聞いたことのないケーキだな。タルトは分かるけど、タタンってどういう意味かな。よく分からないけど、でも、なんだかかわいい響きの名前だ。


 アタシが首をかしげさせていると、

「リンゴのお菓子ですよね」

と月島さんがたずねた。すると、ブロンシュさんはにこりと笑い、「そうよ」と返事をする。


 へえ。月島さんって、物知り。さすが頭が良い人は何でも知ってるなと、アタシは感心する。ってことは、タタンって、リンゴのことかな。


 ブロンシュさんの話によると、リンゴは秋から冬にかけてが旬らしく。だから、リンゴを使ったタルト・タタンは、今の時期・秋にぴったりのケーキなんだって。


 そんなブロンシュさんのおすすめもあって、さんざん迷っていたアタシだけど、タルト・タタンに決めた。月島さんも一緒だ。


 アタシと月島さんは窓際の席に座り、ケーキが運ばれて来るのを待った。店内にアタシたち以外のお客さんの姿はなく、しんと静まり返っていて。だけど、お店の中はたくさんのお花であふれ返っていて、まるでお花畑の中にいるみたいで。置いてある家具やインテリアは落ち着いたデザインのものが多く、なんだか隠れ家みたいで、ちょっとドキドキした。


 トレーを持ったブロンシュさんは、タルト・タタンをお花の形のかわいいお皿に乗せて、アタシと、それから月島さんの前に置いてくれる。タルト・タタンはタルトと名前にもついている通り、タルト生地の上にキャラメル色のソテーされた、黄金みたいなリンゴがたくさんのっていて。わきには真っ白な生クリームがそえてあった。


 それからブロンシュさんは、紅茶も出してくれた。アッサムの茶葉を使ったロイヤルミルクティーだって、紅茶に詳しくないアタシに、ブロンシュさんは教えてくれた。


 ううん、とっても良い香り……!


 おやつに、おいしいケーキと紅茶なんて、なんだかお姫様になった気分。だって、ウチでケーキは誕生日くらいしか食べられないし、紅茶なんておしゃれなもの、出てこないんだもん。


 アタシはいただきますを言うとフォークを持って、早速タルト・タタンを味わった。



「うん、おいしいっ……!!」



 初めて食べたタルト・タタンは、りんごのおいしさが、ぎゅっと凝縮されていて。わきにそえてあった、さっぱりとした生クリームと一緒に食べると、またちがった味わいになって、これまたおいしかった。ブロンシュさんがセレクトした、ロイヤルミルクティーとの相性もばつぐんだ!


 となりで同じように食べている月島さんもアタシほどはしゃいではなかったけど、目をキラキラとさせ。おいしそうに食べていた。


 アタシたちの向かい側に座ったブロンシュさんは、アタシたちの様子を見て、とってもうれしそうに、

「ふふっ、良かった」

と、ほほえんだ。

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