3.
「あら、かわいいお客様だわ」
そう言って出て来たのは、髪の色は灰色で、瞳の色は水色の、外国の人かな。手足が長くてすらりとしていて、とってもきれいな人だった。
まるで女優さんみたい。どきまぎしていると、お姉さんは、ふふっとやわらかくほほえんだ。
「もしかして、学校の帰り道?」
「えっ!? えっと、その……」
そうだ。すっかり忘れていたけど、アタシ達、まだ学校帰りの途中だったんだ。
ランドセルをその辺のしげみに隠してくれば良かったと、いまさら思い付いても後の祭りで。怒られちゃうかなと不安に思っていると、お姉さんは、にこにこと笑ったままだった。
それ所か、
「そしたら、ないしょね」
と、やさしく言ってくれた。
良かった、怒られなくて。アタシは小さく息をはき、胸をなでおろした。
だけど、それも束の間。お姉さんの後ろの方で、どたん、ばたんと、にぶい音が鳴った。
なんだろう? 何か床に落ちたのかな。
そう思ってお姉さんの後方をのぞこうとすると、突然目の前に何かが迫って来た。思わずアタシの喉奥から、
「きゃっ!?」
と、短い悲鳴がもれる。それから、なんだか急に辺りがほこりっぽく、鼻はむずむずして、息は苦しくなって……って、え……。一体何が起こっているんだろう。
アタシはせきこみながらも、何度もまばたきを繰り返した。だって、ホウキがひとりでに動いているんだもん。ちらりと横にいる月島さんを見ると、月島さんもぼうぜんとしていた。
「こら、バレったら! ダメじゃない、いたずらをしちゃ!」
お姉さんは、せっせとアタシにゴミをかけているホウキに注意する。だけど、ホウキはお姉さんの言うことをきかない。
だれか何とかしてよー!
そう思っていると、
「こら!」
と、今度は横から怒鳴り声がした。声のした方を向くと、視線の先には一匹の黒ネコがいた。
黒ネコは、つり上がっている瞳を、さらにつんととがらせて、
「さっさと止めないか、ブロンシュ!」
と、お姉さんに向かって怒鳴りつける。
ネコが人を怒るなんて。変なのーって、あれ……?
「ネコが……、ネコがしゃべってるっ……!??」
アタシの口から、大きな声がもれた。
すると、その黒ネコは、じろりとするどい目つきでアタシのことを見た。
「なんだ、また人間の小娘か」
小娘? それって、アタシのことを言ってるんだよね。生意気で、かわいくないネコ!
むっと眉間にしわを寄せていると、お姉さんは、
「あら、あら。また話相手が増えましたね、ノワールさん」
と、ネコに話しかける。
えーと、アタシがおかしいのかな。それとも夢でも見てるの?
ホウキはアタシにゴミをかけるのにあきたのか、いつの間にか止めてくれていた。だけど、不可思議なことが次々に起こって、アタシの頭は追いつかない。
ひとりでに動くホウキに、人間の言葉を話すネコ。それから、そんな不思議なことを当たり前のように受け入れているお姉さん。
そう、そのお姉さんは、まるでーー……。
「魔女みたいですね」
アタシが思っていたことを、月島さんが先に言った。
出おくれちゃったアタシは、月島さんのとなりで、こくこくと大きくうなずく。月島さんが言った通り、お姉さんは魔女みたいだ。
ドキドキと胸を高鳴らせながらお姉さんの返答を待っていると、お姉さんは、にこりと笑って。
「ええ。私、魔女なの」
なんのためらいもなく、そう返した。
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