三杯目:憧れのタルト・タタン 〜automne〜

1.

「あーあ……」



 学校からの帰り道。一緒に帰っていたつばめちゃんと千鳥ちどりちゃんといつもの十字路で別れると、アタシは家までの残りの道をとぼとぼと一人で歩いていた。


 いつものアタシだったら、家に帰ったら何して遊ぼうと、スキップ混じりで帰っていたんだろうけど……。今日のアタシは、少し落ち込んでいた。なんせ今日の昼休み、ちょっと気になっている同じクラスの男の子・鷹城くんの、好きな女の子のタイプを知ってしまったからだ。


 それがアタシ、星川ほしかわつぐみのような女の子ーーだったら、こんなに落ち込んだりはしない。そう、鷹城たかしろくんの好みの女の子は、おしとやかな子で。アタシとはまるっきり真逆、正反対な子だったからだ。


 鷹城くんは、アタシ以外にも気になっている女の子が多く、人気がある。だって、鷹城くんは頭が良くて、やさしくて。それから、顔だって整っていてかっこいい!


 ここが小さな田舎町でなく東京だったら、きっと芸能事務所にスカウトされていると思う。だから同級生だけでなく、鷹城くんは下級生の女の子達にも人気があった。


 そんな鷹城くんの好きなタイプが、おしとやかな女の子、か。クラスメイトの中で言えば、きっと月島つきしまさんみたいな人だ。


 月島雲雀ひばりさんは、美人で、頭が良くて、その上、お父さんは会社の社長で、お金持ちのお嬢様!


 肌は白くて、髪は長くて、さらさらしていて。着ている服も大人っぽいワンピースが多く、レースやフリルが付いていて、とってもかわいい。なにより月島さんによく似合ってる。


 アタシもあんなお洋服、着てみたいけど……。でも、着なくても分かってる。アタシには絶対似合わないって。


 月島さんとは同じクラスだけど、でも、あまり直接話したことはない。別にきらいだとか、仲が悪いとかではなく。単に関わりがないと言えば良いのかな。だって、月島さんは、おしゃれな子たちが集まったグループの子で。休み時間は教室で、おしゃべりをして過ごしているような子だ。


 反対にアタシは休み時間になれば、グラウンドや体育館に行って、バスケをしたり、サッカーをしたり、体を動かして遊んでいる。数合わせで、男子の中に入ることだってある。勉強は苦手だけど、体を動かすことに関しては、その辺の男子にも負けない自信がある。


 そう、アタシと月島さんは、大ちがい!


 お兄ちゃんと弟と、男兄弟にはさまれているせいか、昔から遊ぶおもちゃは、ゲームやラジコンといった男の子向けのものが多かった。


 髪の毛も、本当は月島さんみたいにきれいに伸ばしたいんだけど……。アタシの髪は、極度のくせっ毛で。長いと、あっち、こっちにはねちゃうから伸ばせない。だからいつも短くて、服も動きやすい格好、パーカーにパンツが多いから、たまに男の子と間違えられちゃうことだってある。


 ううん、それだけならまだいいの。なんせクラスの男子はアタシのこと、女の子だと思ってない。アタシのこと、いっつも男扱いしている。


 きっと鷹城くんだって。他の男子と一緒でアタシのこと、女の子だとさえ思っていないだろう。


 あーあ。神様って、なんて不公平なんだろう。


 アタシも月島さんみたいな、おしとやかな女の子になりたいな。そしたら鷹城くんも、少しはアタシのこと、女の子として見てくれるかな。


 月島さんみたいな女の子になりたいーー……。


 なんて。


 そんなこと、いくら考えたって月島さんになれる訳ないのにね。


 うん、ダメだ、ダメだ! うじうじしてても仕方がない。鷹城くんのことは忘れちゃおう!


 アタシは気を取り直し、帰ったら何して遊ぼうかなと考える。今日はつばめちゃんも千鳥ちゃんも、二人とも塾や習字のおけいこがあるから遊べない。でも、近くの公園に行けば、きっとクラスの男子たちがいて。野球なりサッカーなりしているだろう。


 その中に混ぜてもらおうと思っていると、

「あれ。なんだろう、この道。こんな所に道なんてあったっけ?」

 いつも通っている通学路なのに。それなのに、見覚えのない道を発見して、アタシは首をかしげさせる。


 こんな所に道があったなんて、全然気がつかなかった。それとも、新しくできた道なのかな。その道は木々に囲まれていたから、見落としていても不思議はなさそうだけど。


 アタシはしばらくの間、立ち止まって、じっとその道を見つめる。どうしてかな。なんだかこの先にいる誰かに呼ばれている気がするの。それに、知らない道を通るのって、冒険をしているみたいでとってもワクワクするよ……!


 アタシは不可思議なその道に、すっかり胸をときめかせ。ランドセルを軽く揺らしながら、ずんずんとその道を進んで行った。

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