5.

 空っぽになったお皿とティーカップをそのままに、わたしはブロンシュさんに見送られて扉へと向かう。


 ドアノブに手をかけ一歩踏み出してから、わたしはくるりとブロンシュさんの方を振り返る。



「あ、あの、ブロンシュさん。また遊びに来てもいいですか……?」



 ノワールを抱いたブロンシュさんは、にっこりと、やさしく笑ってくれ。

「ええ、もちろん!」そう言ってくれた。



 外に出ると空は薄暗く、すみれ色に染まっていた。下の方はだいだい色で、むらさきとオレンジのグラデーションになっていて、すごくきれいだった。


 ブロンシュさんは、おみやげにマドレーヌもくれた。お母さんとお父さん、それから、おばあちゃんにもって。ネコの網様が薄らと描かれている透明な、かわいい袋に入れて。


 大丈夫、大丈夫。


 それは、ブロンシュさんがわたしにくれた魔法だ。まだ不安も残ってるけど、それでも。


 だって、わたしには味方がついてるもの。好きは、わたしの味方だもん!


 ずっとわたしにつきまとっていたもやもやは、いつの間にか消えていた。


 わたし、この町を好きになれそう。ううん、ブロンシュさんがいる、カフェ・プランタンがあるこの町をもう好きになっている。


 わたしは軽い足取りで、

「ただいま!」

と、新しい家の玄関をくぐった。

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