ダンジョン-3
門を開けた瞬間、中から吹き荒れた黒い風の塊が、アルテたち三人を散り散りに吹き飛ばした。
「うわああああ!?」
『ギギィ!?』
「ちっ、いきなりかよ」
唯一無傷でその場に留まっていたアルテは、開け放たれた門の奥に剣呑な眼差しを向けた。
『……冒険者か。久しぶりの客だ、歓迎するぞ』
薄暗い闇の奥で、
黒い、
体長は十メートルにも迫る。大きな翼を広げ、広大な《ダンジョンマスターの間》の中央に威風堂々と君臨している。全身を覆う鱗はくまなく墨のように黒く、威圧感のある眼球だけが血のように赤かった。
――《
本や噂で聞いただけの存在が、目の前にいる。
「あんたに個人的な恨みはないが。悪いけど私の
『ほざけニンゲン風情が。……ん? 後ろにいるのは、まさか魔人か? なぜニンゲンと……おい、そこのゴーレム。何をぼけっとしている、さっさとそのニンゲンを始末せんか』
錆竜に睨まれ、ギギは一瞬ひるんだが、光る目をキッと尖らせてファイティングポーズをとった。
「悪いね。あんたの部下を勝手に口説いちまって」
『……そうか。全く構わんよ。そんなゴーレムの一体や二体、いなくなったところで何も問題はない』
超然と吐き捨てた錆竜に対し、アルテはニヤリと笑うと地面を蹴り砕いた。
『ッ!?』
爆風をまとって瞬く間に錆竜の頭上をとったアルテが、すでに長い赤毛を逆巻かせて剣を振り上げていた。
「ノロいな、ドラゴンってのは」
『小癪なァッ!』
剣が首をハネる寸前、錆竜の全身から鉄粉をまとったような赤黒い風が吹き荒れ、アルテの体を飲み込んだ。
「ぐっ!?」
不自然に体を硬直させて高所から落下したアルテは、ひどい
『フハハハハ、我の
「はい、アルテさん、治りましたよ」
「おぉ、サンキュー」
『なにいいいいいいいいいいいいッ!?』
錆竜の絶叫が管理者の間に響き渡った。少し目を離した隙に、アルテの姿が何事もなかったかのように元の姿に戻っている。体だけでなく、一緒に錆びつかせたはずの剣や防具まで全て。
「あぶねー、いきなりゲームオーバーになるとこだった。あれは初見じゃ無理だな。お前の【回復魔法】のおかげで助かった」
「そ、そんなぁ……それほどでも……」
嬉しそうにモジモジする魔人の少年。黒髪に灰色の肌。穏やかなエメラルド色の瞳。なぜ、魔族がニンゲンを助ける。錆竜の思考は混乱を極めた。
【回復魔法】だと。バカな。今まで錆竜が
あれは、【回復魔法】なんかではない。もっと、とてつもなく高位の魔法だ。錆竜でも扱えない、魔王軍四天王クラスの秘術。
ヤツから先に倒さねば、と考えて、錆竜は絶望した。錆竜は、あの魔人を攻撃することができないのだ。
錆竜も含め、すべての魔族は魔王によって「同族殺し」を固く禁じられている。喧嘩も決闘もいじめも自由だが、殺すことだけは絶対に許されない。もしも同族を殺したが最後、その者は魔族の称号を剥奪され、魔王直々に命を狙われることになる。
あの魔人は倒せない。しかしあの魔人がいる限り、あの女は何度でも蘇る。つまり、この戦いはもう、"詰んでいる"――
「考え事は終わりか? ドラゴン」
『ぐ……ぐぉぉぉああああああ!』
三百年の時を生きてきた錆竜は、今生まれて初めて命の危険を感じていた。可憐な
奥義・【
錆風を凝縮し、指向性を持たせて放つ一点集中の砲撃。威力は全身から放つ錆風の数百倍。錆びるどころか、ブレスに触れた端から腐り落ちて骨も残らない。
錆竜の口から放たれた錆色の竜巻が、空中で無防備だったアルテをあっという間に喰らい尽くした。
「――エクストラスキル、【万物切断】【斬撃放出】」
錆風の塊の中で、鮮烈な赤い閃光が弾けた。
瞬間、【
「悪いな。なんでも斬れるんだ、私の剣は」
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