第2話 仲良くしましょう
「貴方達はこの施設で共同生活を送っていると聞きました。今日から一か月、自分もそれに加わります。どうぞ仲良くしてください」
感情のこもらない平坦な声と共にジョーカーが右手を差し出す。静まり返った場で最初に口を開いたのはエースだった。
「どうやら拒否権は無いみたいだな。それならまあ、仲良くしようか」
そう言ってエースは距離を詰めるとジョーカーと握手を交わす。どうやらこの男は友好的らしいと判断したジョーカーが周りに目を配れば、そこには警戒心を露わにした眼差しが四つ。代表するようにキングがゆっくりと口を開いた。
「んなこといきなり言われてはいそうですか、って言うこと聞けるかよ」
「今までは兵器として生きろと言われていたのに今度は人間に戻れ、だなんて随分虫の良いことですね」
クイーンの追撃に、ジョーカーはと言えば白髪をぽりぽりと掻いて沈黙を貫く。どうやら返す言葉もないらしかった。代わりに抗議の声をあげたのはジャックである。
「まぁ、彼らにも事情があるんだと思うよ。それに、本当なら兵器として処分一択だったのかもしれないのに選択肢を与えてくれたのは温情なんじゃないかな?」
その言葉に今度はキングたちが言葉に詰まる番だった。確かに自分たちは戦争とはいえ多くの人間を殺し、その報酬として衣食住を確保してきたのだ。平和的に戦争が終結したとはいえ、戦犯として槍玉にあげられてもおかしくはないだろう。
それを一般人としてまた扱う、と言っているのは国としての最大限な譲歩なのではないか、というのがジャックの考えだった。
再び静まり返る場の中で、テンの能天気な声が響き渡る。
「つまり、人間に戻れば今まで通り飯が食えるってこと?」
それならまあ、異論はない。他の皆だってきっとそうだろう。頷いてくれるに違いない。
そう思って発言したのに、返ってきたのは全員の高らかな笑い声だった。
「うん、そうだね。テンの言う通り。またみんなで一緒にご飯を食べられるようになるために頑張ろうってこと」
目を白黒させるテンの肩を、笑いすぎて涙目になっているジャックが叩く。先ほどまであった剣呑な雰囲気はどこへやら。とりあえず場が収まったようで良かったけれど、少し腑に落ちない。
不満げに眉間にしわを寄せるテンに向けて、またジョーカーの真っ黒な瞳が向けられる。しかし不思議なことにそれは先ほどよりは少し和らいでいるように見えた。
「テン、でしたか。自分は少しは食事も用意できます。ですからここに置いてはもらえませんか?」
淡々とした口調であるにも関わらずすがるような響きが伴っているのがなんだか少し心をくすぐって、テンは大きなため息を吐く。
リーダーであるキングの方を見やれば「好きにしろよ」と言わんばかりにそっぽを向かれたので、テンは仕方なしに差し出されたジョーカーの手を取ったのだった。
「まあじゃあ、とりあえずよろしく」
こうして、ジョーカーを含めた六人の日常が始まりを告げたのだった。
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