三章 兆候未だ知られず······
『春眠暁を覚えず』という漢文がある。
『春の睡眠は大変気持ちが良く、朝が来たことさえも気付かない』という意があり、現代においても
そこで思うに、気持ちの良い睡眠というのは、人間にとって一番快適な温度の下で初めてできるものである。
ともすれば、四月の“暖かさ“だけではなく、六月の冷房が少しだけ効いた“涼しさ“の条件下でも同様の効果が望める。
まさに今の教室の環境はそんな秘境とも取れる絶世の寝具だった。
それにしても、眩しいな·····西陽が差すにはまだ早いのに、太陽が直接当たっているような暑さと眩しさだ。
それに、周りが騒がしいような······教室で何してんだ?
「───てく······さい······く······」
なんだ?誰かが俺を起こそうと体をさすってくる。
太田······の声じゃない······女声?
余計分からない······あぁ、まだ眠い······もう少しだけ······寝かせて───。
「───きろ、おい赤城起きろ、もう授業始まってるぞ」
「······ん······あれ、石原先生······?」
「おはよう。居眠りなんて珍しいな、体調でも悪いのか?顔色が悪いぞ」
······ああ、そうか。もう授業が始まっていたのか。
俺としたことが、寝過ごしてしまった。
「······すみません、昨日あまり寝れてなくて······」
「そうか、とりあえず今日は早退すると良い」
「分かりました······」
普段は厳しい先生なのだが、気弱な生徒には優しく接してくれる。
かく言う俺も基本的に学校では真面目に過ごしているので、怒られた事はない。むしろ信頼すらされている。
太田みたいな不真面目な生徒はえらく嫌ってるみたいだが。
「念のため保健室で体温を測って来なさい。その間、担任の先生には親御さんに連絡するよう伝えておく」
「ありがとうございます」
心なしか身体もだるい。本当に体調が悪いのかもしれない。
言われるがまま保健室へ行くべく、重腰を持ち上げることにした。
(今の夢······ぼんやりとしか見れなかったのに、どうしてはっきり覚えてるんだ······?)
───赤城慎也、この兆候未だ知られず······。
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