二章 浅眠(せんみん)
キーンコーンカーンコーン······。
昼休みを知らせるチャイムが鳴り、誰もが気を緩め始めた昼下がりの午後一時。
購買パンや弁当を求めて廊下を走り出す者や別の教室へ昼食を摂とりに行く者、また体育館から教室に戻ろうとする者、またすれ違い様に挨拶する同級生、あるいは部活の先輩後輩など······日々の授業に退屈を感じていた生徒達にとっては、この時間が数少ない緩やかな一時なのである。
無論俺は廊下に出る用事も他に弁当を食べる親しい友達もいないので、一人弁当を取り出す。
「よいしょ······やっと昼休みだな。今日やけに授業長く感じね?」
前言撤回しよう、目の前のじゃじゃ馬以外に弁当を食べる友達もいないので、仕方なく二人で弁当を食べる。
そんでもって、あいも変わらず頼んでもいないのに毎度の如く弁当を持ってやってくる太田。他に友達おらんのかお前は。
「昨日が短縮授業だったからな。俺も一限から結構キツかった」
「へぇ、お勉強大好き赤城クンが珍しい」
「ただ座って聞くだけの授業は勉強の好き嫌い関係無くキツイだろ。あと俺は勉強が好きなわけじゃない」
正確には好きでも嫌いでもない。
最初はクソ喰らえとか思っていたが、中学入学頃から毎日嫌々やっていくうちに、いつの間にか習慣化していた。
その瞬間から、勉強に好きも嫌いも生まれなくなった。
というか、普通人間の日々の習慣に好き嫌いも無いと思う。
例えば、大袈裟だが「俺、うんこするの好きなんだよねぇ」とか言う奴は見たことないし、居たとしたら間違いなく人間を超越してる。
つまるところ、何でも持続が大事ってわけだ。
「······あ、おい見ろよ赤城。
「ん?あぁ、前にお前が言ってた······」
隣のクラスに在籍している、噂に事欠かない女子生徒。
以前太田から可愛いだの何だのと話には聞いていたが、確かに噂を裏切らない顔立ちをしている。
「見ろよあれ、間違いなく学年トップクラスの顔面偏差値だろ?」
「そうだな、可愛い可愛い」
「興味なさげを装っても無駄だ、それに聞け、なんと榛名さんは見た目だけじゃない」
「どうせ、成績優秀スポーツ万能の才色兼備とかだろ?」
この手の
「よく分かってんじゃねえか。ほら、ラノベの定番だろ?そんな人と同じ校舎にいるって考えてみろよ、俺らもラノベの世界に入ったみたいじゃないか?」
「百歩譲ってここがラノベの舞台だとしても、俺らはモブ以下の存在だろ。あんま夢見ない方がいいぞ」
「またお前は、そういうこと言うなよ······はぁ、なんか萎えるわぁ······」
言葉通り、相当テンションが下がったのか、俯いて米を
「そう思うなら、彼女作れば?」
「簡単に言うな、ましてや擬似ぼっちの赤城如きが。俺がここで飯食ってなかったらモノホンのぼっちだろ」
ひっどい言い草だけど何も言えない。何これムカつく。
さすがに黙っているわけにはいかないので、ここは論点をすり替えて懲らしめることにしよう。
「じゃあ他に友達がいる太田クンに俺から勉強を教える必要はないな、夏休みは補習室で過ごせ」
「え、ちょ、それは卑怯でしょ······」
「嘘だよ、アホかお前」
「おい、さすがにキレて良いよね?サラッと最後に暴言を追加するのはおかしいだろ」
へいへいさーせん、と適当に流して、数分もしたところで昼食を食べ終えた。
どう考えても太田の方が死体蹴りしてた気がするけど、言わないでおいた。
「······ふぅ、ごちそうさま」
「またお前は、相変わらず少食だなぁ。もっと食えばいいのに」
俺の食べ終えた空の弁当箱を見て、太田がそんな声を漏らした。
「あんま食い過ぎるとこの後眠くなるからな。昨日の今日で眠気と闘うのはさすがに死ねる」
「確かに······それに五、六限が古文と現代文の国語詰めだったな······ちょっと仮眠してこよ」
おかずが少しだけ余っていたが、すぐさま蓋を閉じて元の席に戻って行った。
五限の授業まで残り二〇分。俺もぼちぼち仮眠するか。
弁当を机上から退け、次の授業の準備だけしてそのまま突っ伏した。
陽が当たらず、教室の冷房も直接当たらないくらいの絶妙な席、そして今が一番快適な温度だ。
昼寝にはもってこいの環境。座っていなければ、数分も経たずに眠りに落ちそうだ。
それでは、少しの間おやすみなさい───。
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