名無しの夢日記

@Minakawa-HSG

一章 日常

 六月中旬。

 日もすっかり伸び、梅雨の湿気に苛つきを覚えつつも、何日かぶりに太陽が顔を出す今日この頃。

 雨上がりの空は燦然さんぜんと輝いていた。いやはや、眩しい。

 暑いのは嫌いじゃない。と言うよりかは寒いのが単に苦手なだけで、そんなに大した理由はない。

 いや、嘘をついた。本当はこの晴れた景色が全部好きなんだ。

 水溜りに反射する日光。生い茂る木々が作る日陰。田んぼから漂う水草と土の匂い。

 夏は本当に綺麗で、心を奪われる。

 「おっす、赤城」

 「おう太田、おはよ」

 晴れ間の景色に見惚れながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

 「今日は猛暑日だってよ」

 「昼頃に三十五度だっけか······今日も今日とて今年最高気温だな」

 「昨日の雨で湿っぽいのに、勘弁しろよなぁ······もういっそサボりてえよ······」

 「こっちまで怠くなるから鬱モードはやめろ」

 とまあ隣で耳障りな愚痴を溢すのは、同級生の太田明日人おおたあすと

 そしてそんな太田に連れて歩くのが、俺こと赤城慎也あかぎしんや

 太田とは高校入学して以来の腐れ縁、もとい友人である。

 「六月は祝日が無いからなぁ、夏休みが一層恋しくなるなぁ······はぁ、海行きたい······」

 「お前誰と話してんの?」

 「一応赤城に向かって言ってるつもりなんだけど?海、行きたいじゃん」

 「そりゃ行きたいけど、それより先に期末があんだろ、現実逃避すんな」

 「なんでさぁ!それをさぁ!言っちゃうのかなぁ!?せっかく俺が学校のモチベを少しでも上げようとしてんのによぉ!!」

 胸ぐらを掴みながら叫び散らしてきた。暑いからやめて欲しい。あとうるさい。

 「だって事実だろうが。あと暑苦しいから離せ、むさ苦しい」

 「けっ、どうせ赤城クンはテスト余裕ですからね、そうやって人を見下しちゃうんだぁ」

 「見下すって······まあ確かに太田に対しては否定できないけど」

 「うわ出た、ナチュラルサイコパス。お前のその発言が俺を傷つけてるの知らないだろ?」

 ああもう鬱陶しい。ナチュラルサイコパスってそれ使い方合ってんの?

 「俺の事はいいけど、それより今回の期末は赤点補習あるって知ってんの?」

 太田がピタリと立ち止まった。

 「え、ちょ、やめろよ、そういう冗談。揶揄うにしたってもうちょいやり方が·········」

 「·········」

 沈黙が続くこと五秒。

 秒数のカウントが増えるたびに太田の血の気が引いていく。やばい笑ってしまう。

 「······マジ?」

 「マジだよ。いい加減現実を見ようか」

 「············赤城さん」

 「嫌だよ、面倒臭い」

 「まだ何も言ってねぇだろ?!」

 涙ながらにしがみ付く太田を振り払って通学路を歩む。

 こんな風に、いつもと変わらない調子で学校に到着するのだ。

 今日も今日とて平和だ。

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