本気出して幸せについて考えてみたけど、他人に決めつけられるのはおかしくないか?
富升針清
第1話
人生には二十四回の幸せが準備されている。
それは全ての人に平等だ。
どれだけ短くても、どれだけ長くても、二十四回きっちりハッピーが用意されているのだ。
この数字を少し物足りないと感じる人間もいるかもしれない。
二十四年の人生なら、平均して一年に一回。
四十八年の人生なら、平均して二年に一回。
七十二年の人生なら、平均して三年に一回となる。
確かにこう見ると、少ないかも?
一年は三百六十五日あるわけだし。
平均寿命の人はその三倍待たなきゃいけないって事だからね。
でも、幸せを均等に受け取れるのはそれまた幸運な事なんだ。
僕は十九歳、浪人生で幸運を使い果たした筈は既に二十回。
残りの幸運は四回しかない。
恐らく、二十一回目の幸運は大学合格に使われる事になるから、それから三回に減ってしまう。
残りの人生何年かわからないけど、後四回しか僕に幸せが訪れないとはなんて事だ。
でも、僕の周りにはもっと酷い奴はいる。
瀬戸口君は、既に二十四回の幸せを使い切ってしまっていた。
保田は残り一回。
逆に森本はまだ二十一回残ってるって言ってたっけ。
僕は深いため息を吐く。
手の中にある葉書を見つめながら。
その葉書は幸せ管理局からだった。
厚生労働省管轄の幸せ管理局から、残り幸せが少ない僕に定期幸せ診断のお知らせが来てしまったのだ。
幸せを使い切ってしまうと、幸せがなくなる。
幸せがなくなると、自殺などの不幸せが多くなる。
そんな事を起こさない為に、残りの幸せが少ない人達を幸せ管理局が管理してフォローをしてくれる。
二十回を切ると、通知が来るって本当だったんだ。
周りの幸せ量が少ない友達が言っていた事をいまいち信じていなかったが、実物を見ればそんな事は言ってられない。
これから俺はどうなってしまうんだろう。
葉書を眺めていると、不安が押し寄せてくる。
幸せ診断中の医療ミスでうっかり幸せ回数が減った事件があたり、幸せ診断中に幸せ管理局が回数を間違えて幸せ回数を増やしてしまい、不幸な事故が起きとか。
正直、幸せ管理局と言うものを余りよく知らない僕にとっては、得体の知れない機関で何をやられるか不安で怖くて仕方がないのだ。
幸せ管理局は、テレビでは度々取り上げられるが、授業とか聞いていても詳しい実態はよく分からない。
幸せを管理する政府機関。
説明はお決まりのその文句だけ。
幸せを使うと、幸せ管理局から、貴方は◯年◯月◯日◯時◯分◯秒◯◯の◯◯にて、◯◯◯で幸せになりました。おめでとうございます。残りの幸せは◯◯回です。
と、翌日に通知が届く。
それをみて、あ、僕は幸せだったんだなって実感する。
それぐらいしか、幸せ管理局のことはよく知らない。
しかし、幸せがないと言うのは大変困る。
結婚は勿論の事、就職にも不利だ。
残り幸せが多い奴の方を企業も欲しているし。
結婚も、矢張り残り幸せが多い奴と結婚したいと言う奴の方が多い。
僕はもう一度、ため息を吐く。
幸せ診断は今日の午後から。後二十分ぐらいから始まってしまう。
行きたくないなぁ。
でも、これ以上幸せが減るのは困るので行くしかない。はぁ。余り幸せを感じない様にしなきゃな。
僕は気合を入れ直して、幸せ管理局の支部に向かった。
「受付は、こちらです」
煌びやかな女人が、僕の手から葉書を受け取った。受け取る時、その軽やかな指先が僕の手のひらに春風の如く掠めていく。
二十一回の幸せ通知が来たのは、その次の日の事であった。
本気出して幸せについて考えてみたけど、他人に決めつけられるのはおかしくないか? 富升針清 @crlss
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
何とか方向修正したいマン/富升針清
★17 エッセイ・ノンフィクション 連載中 57話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます