天の声
黒幕横丁
天の声
「キャーーーー」
甲高い女性の声が山小屋中に響き渡る。そこ声を聞くや否や、僕はその声の方向へと走り出した。どうしてだろう、自然と体が女性の元へと向かうのだ。
「どうしましたか!」
やや乱暴に扉を蹴破ると其処には白いドレスが真っ赤に塗れ、床に倒れている女性とその女性に全くの瓜二つの女性が倒れている女性を見て震えていたのだ。
僕の声に気付いたのか、震えている女性はわなわなと口を開ける。
「ね、姉さんが……誰かに……わぁぁぁぁぁあん」
言葉を紡いで、姉の死を実感した女性は声をあげて泣き叫んだ。
「どうしたー? って、わっ。コレは酷いな」
女性の声を聞きつけた他のメンバーが僕から遅れてやってきて、この惨状を目撃し、声を漏らす。
「姉さん! 姉さん! 目を覚まして! 姉さん」
女性は錯乱して、懸命に姉の体を揺さぶるが、彼女が起きることは無かった。
一体誰が彼女にこんな酷い仕打ちをしたのだろうか。
いや、その答えを見つけ出すのは僕じゃなくて警察だ。まずは警察に連絡をしてから話を始めよう、と僕はスマホを取り出す。このご時勢何処でもつながれるはずなのに、電波が圏外になっていた。
……仕方ない。山小屋だから固定電話くらいあるだろう。ソレを、
「大変だ! 固定電話の電話線が切られてるし、麓の村へ通じる唯一の通路も何故か通行できなくなっている」
……詰んだ。この山小屋はクローズドサークルになってしまった。
こうして、この事件は犯人が見つかることもなく迷宮入りとなった。
『ちょっと待てや』
いきなり部屋の上の方から声がして、ビビった。山小屋にいる皆も同様の声が聞こえたらしく、上の方を一斉に見た。
「だ、誰だ」
『わしはミステリーの神や』
凄く胡散くさい関西弁を話す声の主はそう名乗った。
『お前ら何回同じことが起こったら学習するん? これでもう21回目やで? お前らには続けてるっていう感覚はないかと思うけども、わしは正直同じこと21回もされたら流石に飽きるわー』
なんかとんでもない爆弾発言か繰り出されたんだが。これがもう21回も起こっているというのか!?
『いきなり起こった事件、クローズドサークル、警察来るまでの間に事件をとかないと自分の身も危ない。こんなにミステリーの条件揃っているというのに、誰も探偵役したいとか思ってへんの?』
「いや、探偵役とか危ないじゃないですか。警察がくるまで大人しくするってのが定石でしょ!」
「そーだそーだ」
僕の言葉に皆が賛成してくれた。
『はー……、君たちこの仕事舐めてんの?』
天の声はそう僕たちに告げる。
『困るんよねー、そーいう素人感覚で来るの。もうちょっとプロとしての自覚を持ってもらわないと』
ミステリーに巻き込まれる人間にプロもへったくれもあってたまるものか。
「何様なんですか?」
『一応、神様ですが?』
僕の問いに間髪入れずに天の声は答えた。
『はいはい、今回のダメだった点をちゃんと反省してもう一回ね。まぁ、巻き戻ったら記憶はリセットされるから意味は無いんやけどねー』
パンッ。
天の声の拍手により、時間が巻き戻る。
彼を満足させない限り、この茶番劇は終わらない。
天の声 黒幕横丁 @kuromaku125
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます