二十一番目の窓から
よすが 爽晴
パノラマへ
二十一個の窓がある。
学校の三階、手前から数えて二十一番目。その窓は、未来の自分が見えるらしい。そんな夢見のような話は校内でも有名で、今日も誰かが噂をしている。
「馬鹿らしい」
ゆっくりと首を横に振りながら、手に持っていたパックジュースを流し込む。人工甘味料が強めの味は普段と同じで、慣れたものだ。甘くて喉が焼け付くようで、それでも美味しく思えてしまう。
「馬鹿らしいって、ちょっと気にならない?」
「未来の自分を見てどうなるのさ」
「相変わらずひねくれだね」
からかうように笑っているから本心ではないってわかっても、なんだか腹が立つ。
目線を逸らして外を眺めると、子ども騙しなそれを振ってきた彼女は聞いてる? と聞いてきた。
「今度一緒に行こうよ」
「いやだね、そもそもあれって一人で覗かないとだめって言うじゃん」
「興味なさそうなのに、それは知っているんだね」
「っ……」
少し、墓穴を掘った気分。
放課後の教室は私達しかいなくて、誰かが聞いているわけでもない。けれどもなんだか彼女にからかわれるのが癪で私はそんなのじゃないからと立ち上がった。
「だいたい、そんなの嘘だから」
「なに、知っているような口ぶりじゃん」
「知らないよ、ただこう言った都市伝説系は気のせいの独り歩きって言う」
机にかかっていたカバンを乱暴に取りながら、目を細めて。
「帰る」
「もう帰っちゃうの? 五組の授業終わったらカラオケ行かない?」
「今日家の用事あるから行かない、じゃあね」
「はいはい、じゃあね」
ひらひらと手を振りながら、私は早足に教室を飛び出した。
そのまま逃げるように土間――ではなく、上の階へ続く階段を駆け上がった。
「別に、信じていない」
私は、信じていない。
未確認生物だって、あれは新種の動物。
怪奇現象にだって、必ず理由がついてくる。
オカルト的な怪談だって、あれは子どもに言い聞かせるための昔話だから。
世界には、すべて理由がついてくる。だから、二十一番目の窓も同じ部類だ。同じで、子ども騙しだ。
「だから、私は信じていない」
噛み締めるように、自分自身へ言い聞かせるため。
二階にある教室から見て、一つ上の階。三階についた私は、壁際に並ぶ窓を数え始めた。
「一、二、三……」
確かめるように、一つずつ。
信じているのではない、ただ今日もこの都市伝説が本物になっていないかを確認するためだ。都市伝説は時に、噂から本当になる。あまりに強い言葉達はいつか形を成してしまうから、そうしたらこの話も本物になってしまうから。
「だから、そうなっていないか確認で」
それ以上でも、それ以下でもない。
問題の窓の前に立ち止まり、手をかける。
窓を開けた先に、外の景色ではなく未来の自分を見る事ができる。そんな内容だったはずだけど、実際はそんなことあるわけない。だってほら、今だって少し開いているけど向こうにあるのは二階からものと同じそれで――
「お、なにやってんだ」
「わ!?」
突然、後ろから声をかけられて肩を揺らす。
声した方を見るとそこにいたのは隣のクラスのクラス委員をする男子で、一年の時のクラスメイトだった。
「なんだよ、お前まさかあの噂信じてるのか?」
「別に、そんなのじゃ!」
わざとらしいなと自分でも思いつつ、否定をした。そんな時だ、ふと窓に手をひっかけて勢いよく開けてしまったのは。
冷たい風が廊下いっぱいに入ってきて、私も彼もあまりの強さに目を細めた。しばらくして落ち着いた視界の中で、私達はそっと窓の外へ目を向けて。
「え……」
「嘘、だろ?」
目の前に広がっていたのは、今の私達ではなく――
二十一番目の窓から よすが 爽晴 @souha
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