第9話:家出少年を捕まえろ

部室に入ると、田中君がパソコンを操作している。

私と南は、いつものように飲み物を作ろうとしたその時だった。


「依頼者と喫茶店で待ち合わせをしている。俺と後一人ついてきて欲しい」

「結衣が行きなよ。私が行って依頼が無くなったら最悪だからさぁ」

南は、髪をかきあげながらそう言った。


私と田中君は、部室を出て喫茶店に向かうことにした。

わざわざ喫茶店に行くということは、依頼者は生徒ではないということが分かる。

ドキドキしながら喫茶店に入ると、田中君が一人の女性の元に向った。


私は女性の姿を見て驚いた。

なぜならその女性の見た目が30代から40代だったからだ。

悲壮感を漂わせ、頭を抱えている。

女性の姿を確認して私は確認した。今回の依頼もボランティア部の域を超えた依頼だということを。


「初めまして。田中亮太です」

「部長の綾瀬結衣です。初めまして」

私は田中君に続き、ペコリと頭を下げた。

「初めまして。奥本おくもとです」


そう言い写真を机の上に広げた。

写真には、制服を着た男性が写っている。


「手掛かりはこれだけですか?」

おさむの部屋に入れば何かあるかも知れません。よければお邪魔してくれますか?」

「何か手掛かりがあるかも知れないですからね。あと一人修君の部屋に連れていきたいのですが問題ありませんか?」

「大丈夫ですよ」

「部長。前田さんも呼んで下さい」

私は頷き南に連絡をした。


店を出て私達は、修君の部屋を調べることにした。

黙々と歩く私と反し、田中君は奥本さんと世間話をしている。

世間話をしているうちに奥本さんも心を開き色々なことを田中君に相談している。


息子が引きこもりだったこと。

あまり自宅では会話をしなかったこと。

ネットゲームばかりしていたことなど話す内容は様々だ。


そして、引きこもりの息子が一週間も外に出て帰ってきていないらしい。

中学三年生ということもあり、事件に巻き込まれている可能性は大いにある。

事件に巻き込まれる前に、息子を探してほしいというのが今回の依頼らしい。

やはり今回もボランティア部の域を超えた依頼だった。


奥本さんの自宅に入り、私達はリビングでお茶を飲みなが南を待っていた。

「南を呼んで大丈夫だったの?」

私は小声で田中君に訪ねた。

「問題ありません。見た目で人を判断するタイプではないですから。

前田も来ましたので準備をしましょうか」


田中君がソファーから腰を上げると同時に、インターホンが鳴った。


田中君の言う通り、奥本さんは笑顔で南のことを迎い入れてくれた。

私達は、修くんの部屋に案内され何か手掛かりになるものがあるのか調べることにした。


調べるといっても正直何をしたらいいのか分からず、足元にあるノートを手にとった。

ノートの中には、可愛い女性の絵やカッコいい男性の絵が書かれていた。

細かな設定が書かれており、何かのプロットだろうか?


南は、本棚にあるCDジャケットを眺めている。

「修君は、声優さんが好きなんだねぇ」

「南って声優さんに興味があるんだね」

「歌手として成功している声優さんは知っているの。私音楽聞くの趣味だからさぁ。

そっちは何か手掛かりがあった?」

私は、首を横に振った。


今の所、これといった手掛かりは見つからない。

「田中君は、何か手掛かりが見つかった?」

「綺麗に履歴が消されている。手掛かりを残さないとは、中学」

三年生にしては頭が良いな」

関心している場合なのだろうか。

手掛かりを残していないということは、本気で家出をしているということになる。


「じゃあ手掛かりは全くないということなの?」

「そうでもない。綾瀬さんは、奥本さんから、息子の所持金を聞いておいてくれ」

「分かった。聞いてくるね」


私は階段をおり、奥本さんに泊まっている場所を特定したいという理由で所持金を聞き出すことにした。

「お年玉を毎年貯金しているから、ビジネスホテルぐらいであれば、1週間泊まることもできると思うわ

通帳を確認するからちょっと待ってて下さい」

奥本さんは、タンスを開け通帳を探している。


通帳があれば、お金を引き出している場所を特定することができる。

後は自宅に帰るように説得するだけだ。

私がソファーに座りながら待機していると、不安そうな顔をして奥本さんがこちらにやってきた。


「修ったら通帳を持って行ったみたいだわ。力になれなくてごめんなさい」

「謝らないでください。1週間寝泊まりができるだけのお金があると聞いて安心しました。

また何かあったときはよろしくお願いします」


私は頭を下げ修君の部屋に戻り、所持金のことや通帳がないことを二人に伝えた。


「通帳まで持って行ってるなんて、結構大規模な家出だね」

「事件の可能性もあるよね。大丈夫かな?」

「心配するな。事件に巻き込まれている可能性はかなり低い」

田中君がそう言い切り、私達の方を見た。


「やりこんでいたはずのゲームのデーターも消えている。

ここまで徹底的に手掛かりを残していないやつが、闇雲に行動して、事件に巻き込まれるとは考え難いだろ」

「やっぱりビジネスホテルとかに泊まっているのかな?」

「それもありえない。未成年は年齢確認で引っかかるだろ。

誰かの自宅に泊めてもらっていると考えるのが妥当だろう」


すっかり忘れていたが、確かにその通りだ。

けど……誰かの自宅に泊めてもらっているとしたら、その誰かを特定する必要がある。


「じゃあ今回の依頼は、その誰かを特定することが最優先だね」

「そうなるな。まぁネットゲームしかしていないのだから、ゲームで一緒にプレイしていた知り合いだろうな。

やりこんでいたゲームのデーターを消すのはどう考えても不自然だからな」

「田中の話しは理解できるけど、どうやって修君を探し出すの?」


すると田中君は自らのスマホを取り出した。

「やり方さえ選ばなければ、すぐに見つけることは可能だ。」

田中君のやり方さえ選ばなければという発言は、かなりやりすぎる恐れがある。

前回も何事もないかのように人を撃つという選択を選んでいる


「念のためどうやって見つけるか教えてくれる」


私は恐る恐る田中君に、解決方法を聞いてみた。

やり方次第では、あっさりと依頼を解決することができそうだ。

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