第8話:ホームページを更新します

今日からボランティア部は、3人体制だ。

あの事件は、新聞にも報道がされていない。

田中君は、表沙汰にでることはないだろうと言っていた。

表沙汰にならないということは、ボランティア部の実績として、ホームページに載せることができないということだ。


「ゴミ拾いでもしてホームページを更新するか。信頼されたら、依頼も来るかもしれないからな」

「このままじゃあ、ただの紅茶愛好会だからね。ゴミでも拾おっか。」


地域のためではなく、ホームページを更新するためにゴミ拾いをしようとしている。

ボランティア部がこんな感じでいいのだろうか。


「ホームページに載せることも大切だけど、ゴミ拾いもちゃんとやろうね」

「安心してください。それと前田は帽子を被れよ。

ボランティア部にヤンキーがいると思われたら困るからな」

「ファッション部に帽子あるか聞いてみる。結衣も一緒に行こうよ」

「俺は職員室にごみ袋や軍手を取りに行ってくる。校門の前で集まろうか」


そう言い田中君が部室を出た。


「それじゃあ私達は、ファッション部行こうか」

「本当に大丈夫なの?私クラスメイトからよく思われてないし……」

「私もだから大丈夫じゃん。てかファッション部って1年生いないし」

「そうなんだ……」


田中君も言っていたが、南は見た目でかなり損をしている。

規則の厳しいこの高校で、金髪にピアスはかなり異質だ。

廊下を歩いていると、茶髪な女性はたまに見るけど、金髪にピアスをしている生徒は、流石に見たことがない


「ほら結衣。ファッション部についたよ」

ファッション部に入ると、オシャレな衣装が展示されている。


「南ちゃんに友達がいたとは知らなかったよ。お人形さんみたいで可愛い友達だね。」

ロングヘアーにデジタルパーマをかけた女性が、ニコニコとしながら私を見ている。

ダボッとしたセーターとカーティガンを上手に着こなしており、流石ファッション部という外見だ。


「綾瀬結衣です。」

私は、ペコリと頭を下げた。

「可愛いでしょ。私なんかよりずっと良いモデルになると思うよ」

「見た目が正反対じゃん。結衣ちゃんは、お姫様ドレスなんかが似合いそうな見た目でしょ。

それで今日は呼んでないけど何か用事?」

「帽子を借りにきたの。一つ借りてくよ」

南は、キャスケットを手に取りクルクルと回しながら、部室を出た。

「結衣ちゃんもまたおいでよ」

「はい。これからもよろしくお願いします」


初めて学校の先輩と喋ることができた。

私が上機嫌にニコニコしていると、南が不思議そうな顔をして問いかけてきた。


「どうしたの結衣?さっきからニコニコして……」

「なんでもないよ。そんなことより、南はファッション部と関わりあるんだね」

「仲が良かった先輩の友達なんだ……ほらこの学校金髪の子いないから、ちょうどモデルにいいんだってさ」


規則違反だからいないのは、当然だ。

それよりも、仲が良かったという言葉に引っかかる

今はその先輩と仲が良くないのだろうか?

南にもまだまだ困っていることがあるのだとしたら、いつか解決できたら良いなと私は思った。


「南もまた困ったことがあったら依頼してね」

「なに急に……とにかく早く校門の前に行こ。田中も待ってると思うし」


南の言う通り田中君は、ゴミ袋とゴミばさみを持って待っていた。


「これで問題ないでしょ?」

南は、キャスケットを被りクルリと回った。

「ピアスも駄目だろ。ホームページに載るんだぞ」

結衣がダルそうにピアスを取るのを確認し、私達はゴミ拾いを始めた。


最初は、不安だったが二人共真面目にゴミ拾いをしている。


あれから時間が経っても田中君は、黙々とゴミ拾いをしている。

それと対照的に南が、ニコニコとしながら私の方にやってきた。


「ねぇ前から気になってたんだけどさぁ、結衣と田中ってどういう関係なの?」


私はフリーズした。

そういえば、私達ってどういう関係なんだろう。

田中君は、私のことをジェシカ様と呼んいる。

改めて考えてみると、田中君は私のことを様と呼ばないといけない立場の人間だったということになる


「ねぇ結衣。結衣ってもしかして田中のことが好きなの」

「……ち、違うよ。それに田中君だって私のこと好きじゃあないし」

「本当にそうかなぁ~。もしも田中が結衣のこと好きだった場合どうするの?」

南は、ニヤニヤしながら私に問いかける。


田中君が私のことを好きな訳がない。

けど、田中君が私のことを大切に思ってくれているのは確かだと思う。

それに難なくピストルを扱えたりと、田中君は普通ではない。

田中君は私の護衛をしていたのかな?

どんな関係かを考えているとき、ファッション部の先輩が口にしていたことを思い出した。


結衣ちゃんは、お姫様ドレスなんかが似合いそうという発言だ。

ひょっとして私が姫で田中君が王子様だったりして……

違う……そんなことありえる訳がない。


「ちょっと結衣。顔赤くなってるじゃん。可愛いねぇ~」

私は手を振り払いながら全力で否定した。

「ち、違うよ。本当に違うから。もう時間だから田中君を呼びに行こうよ」

「分かった。じゃあ私が呼んでくる」

南は田中君の方向へ走っていった。


田中君のゴミ袋には、大量のゴミが入っていた。

隣にいる南は、やけに嬉しそうにしている。

後で何があったのか詳しく聞く必要がありそうだ。


「先に部室に戻って構わないぞ。俺はゴミを始末してから部室に戻る。」


「それじゃあ後はよろしく。結衣行くよ」

結衣が私の手を握ってきた。

「田中君に余計なこと言ってないよね?」

「言ってないよ。まぁ好きになったら私に教えてよ。協力してあげるから」

ニコニコしながら南はそう答えた。


私達は、部室に戻りボランティア部のホームページを更新した。


部室を後にし、いつものように南を自宅まで送った。

もう安全なことは分かっているが、せっかくだから習慣化することにしたのだ。


「ルーズベルト、ゴミ拾いの終わり、南になんか聞かれなかった?」

「何も聞かれていませんよ」

「本当に何も聞かれていないの?」

「本当ですよ」


じゃあなぜ南はあんなに嬉しそうにしていたんだろう。

「それでは私はここで。本当に私は何も聞いていないので安心して下さい」

そういうと田中君は、歩きながら手を振った。

私は田中君の背中に手を振り返した。


本当に私は何も聞いていないので安心して下さい。田中君は、最後に念を押してこう言った。

田中君は何も聞いていないし、南は何も言っていない。

つまり田中君が何かを伝えたということだ。


田中君は私の過去を知っている。南に何か言ったのだろうか?

ひょっとして私が本当に姫だったりして……

いや。それはありえない。私は考えることをやめて足を動かした。









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