第7話:ルーズベルトの実力

ビデオカメラにはGPS機能がある。

これさえ無事であれば、田中君は必ず来てくれるはずだ。

「あなた達がストーカーしていることを前から相談されていたの。

だからビデオカメラで私もあなたをつけていた」

これでビデオカメラを捨てることはできないだろう。


男性はビデオカメラを再生した。


「そうかぁ。ビデオカメラには、男性の声も聞こえているぞ。

そいつは何処にいる?」

「知らない」

「とぼけるな。

携帯にさっきまで田中という人間と喋っていた履歴があるじゃあないか」


男性は私の携帯を使い、電話をしている。

電話の内容は、一人で指定した場所に来いという内容だ。

警察に通報したら私達を殺すとも言っている


「田中とかいう男性は、ビクビク震えた声で謝っていたぜ。

助けにきてくれるといいなぁ」

男性は、馬鹿にするような眼差して私を見る。


とにかくこれで位置を知らせることができた。

震えた声というのも恐らく演技だ。

必ず田中君は助けに来てくれる。


私は南と同じように縛られ、私は口を塞がれ、紙袋が被せられた。


あれからどれぐらいの時間が経ったのだろう

走り続けていた車が静かに止まった。


私は身動きが取れるようにされ、車から出るように指示された。

車を降りると、私達は大きな倉庫の中にた。


「石原さん。金髪の女を捕まえましたぁ」

「横の黒髪の女は誰だ?」

「友達みたいです。金髪の女をさらっているとき、車の中に入り込んできました」

「そうか。まずは金髪の女を私によこせ。」


「きゃぁ」

南が石原の元に投げられた。

南の髪の毛を掴み、男性が私の方を見る。


「お前ももうすぐしたらこうなるぞ」

石原は、南を強く蹴り飛ばした。


南はお腹を抑えたまま倒れている。

「おいおい。寝るのが早すぎるだろ。

なぁ大人を怒らせたらどうなるかたっぷり教えてやるよ」

私達は、倉庫の奥に移動した。


私は怖くなり、足が震え言葉が出なかった。

倉庫の奥に移動すると、石原はポケットからメリケンサックを取り出した。

「そういえばお前はあのとき俺をヒールで蹴ったよなぁ?」

殺される。

このままでは南が殺される。


男性が振りかぶると、倉庫からノックする音が聞こえてきた。

「石原さん。倉庫近くで隠れていた男性を捕まえたのですが、どうすれば良いでしょうか」

石原は部下の方を強く睨んだ。


「恐らく金髪の女の友人です。

田中という男性も私達の存在を知っていたので、ここに一人で来るように伝えました」

「そうか。倉庫を開けて中に入れろ」

予想外の展開に私の頭の中は真っ白だ。

田中君が捕まった。

約束したのに……南に守ると約束したのに。


扉を開け、男性が倉庫から出たその時だった。

倉庫を開けた男性は、バタリと倒れた。

「おい。どうなっているか外の様子を見てこい」

石原の指示と同時に、倉庫内には数発の銃声音が倉庫内に響いた。


「あああぁぁぁ」


私は怖くなり、咄嗟に目を瞑っていると、男性の悲鳴が聞こえてきた。


私は恐る恐る目を開け、言葉を失った。

石原以外の人間の左手が血まみれだったのだ。


倉庫の入りぐちを見ると、そこには田中君が立っていた。


「うわぁあああああ」

左手を撃たれた男性が最後の力を振り絞り、ポケットにあるピストルを取ろうとする。


ドーン


瞬きをする暇もなく、男性の右手が真っ赤に染まっていた。


田中君は、何もいわず石原に近づいてきている。


「なぜ俺の名前を知っているんだぁ。お前は何者だぁ?」


「刑務所でゆっくり考えろよ。どうした、お前は俺を撃たないのか?」


石原は唖然としている。

周りの状況を見ると、どちらが悪者なのか分からない。


「フハハハハハハ」

石原は笑いながら立ち上がった。

「撃ってみろよ。おい女。

お前を助けるために、あいつは殺人を犯すらしいぞ」


ドーン


石原の足が真っ赤に染まり、崩れ落ちた。


「お前は本気で、私がこの状況で法を犯すことを恐れると思ったか?」


私は田中君の冷めた目を見て要約理解した。

田中君は人を殺すことが初めてではない。

何回も何回も自分の手で人を殺してきたのだろう。

誰かを守るために。その中に、恐らく私も含まれていたんだと思う。


「私は無事だから。ありがとう」

「前田は無事か?」

「蹴られてから倒れているの。南は無事だよね?」

田中君は、南と私の縄を解く。

「大丈夫です。気を失っているだけですから」

そう言い田中君は、南をおんぶして、倉庫の外に向かう。


倉庫を出る時、田中君は入り口で倒れている人間に使用していた拳銃を握らせていた。


「少し歩いてからタクシーを捕まえましょう」

「そうですね」


私達が歩いていると、南が意識を取り戻した。

「結衣は無事なの?」

「私はここにいるよ」

「田中。あの状況からどうやって私達を助けてくれたの?」

「全員撃った。もう誰も前田のことを狙ったりできないように分からせておいた」

「そっか。ありがとう。

後なんかごめんね。万が一のときは、ついていくよ」


私達は、タクシーを捕まえ、南を自宅まで送った。

前田君が簡単な処置をして、私達は南の家を後にした。


「今日は本当にありがとね」

「ジェシカ様も、お疲れさまです」

今まで私は、このやりとりは、田中君が厨二病だからだと考えていた。

けど今日確信した。本当に田中君は、私のことをジェシカ様だと思っている。


「ルーズベルト。実は私昔のことをよく覚えていないの?」

「そうですか……私が昔通り接すれば、いつか思い出すと思っていました」

「ごめん……頑張って思い出すから、ルーズベルトはそれまで待ってくれるかな」

「当たり前です。私はジェシカ様の側にいられるだけで幸せですから」

田中君はニコリと笑った。


「それじゃあ明日学校で会いましょう。ジェシカ様」

「うん」

私は田中君に手を振った。

これからも今まで通り、楽しい毎日が続きそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る