第6話:最悪の事態

田中君の一言で、場が一気に静まり返った。

私は、その場の空気に耐えられず、口を開く

「なんで南を殺すために尾行しているの?」

「それは俺も分からない。けど奴らは間違いなく前田を殺すために尾行している」


そう言い切ると、田中君は鞄からビデオカメラを取り出した。


「ここに一人の男性が写っているだろ?よく見ると歩き方が左右対称ではないことが分かるか?」

私と南は、ジッと画面を見つめた

言われてみれば、確かに左足の歩幅だけ、少し狭いような気がする。


「それって左ポケットに何か入っているってこと?」

南が田中君に質問する。

「そういうことだ。結論からいうと、コイツの左ポケットには、ピストルが入っている」

「ピストルで確定なの?」

南が食い気味に質問をした。

「ピストルを想定した方がいいだろう。

コイツは喫茶店に入ったら、ポケットからスマホや財布をテーブルに置いていたんだ。

そこまでする奴が、歩くのに邪魔なモノをポケットから出さないのは変だろ?」

つまりポケットのは、見られてはいけないモノが入っているということだ。


私が考え事をしていると、南が手の平を叩いた。


「尾行はここまで。こっからは、警察に頼んだ方が良さそうだし」


私達に任せてよ。私はそう言うことができなかった。

下を向き、南に掛ける言葉を探す。


「考え直せないか?

相手はプロだ。警察に頼んだら解決する問題ではないだろ?」

「相手がプロだから警察に行くんじゃないの。ねぇ結衣?」

私は、顔を上げ南と目を合わす。

南の目を潤んでいた。

田中君は何もいわず、私達のことを見守っている。


私の一言で全てが決まる。

田中君は助けたいと言っている。

私なんかよりもずっと賢い人が、危険を犯してまで行動をしようとしている。

私はこれからのことを考えず、南に本心を伝えた。


「助けたい。私は南は助けたい」

私は、南の目を見て答えた

「どうやって?それは結衣にできることなの?」

南が震えた声で私に問いかける。

「分からない……けど、友達だから……一緒にいたい」

理由は分からなけど、私は泣いていた。

言葉を見つけることを諦め、私は南に小指を立てた。


「約束する。頼りないかもしれないけど……

私達のことを信じてほしい」

「ありがとう」

南はそう言い、私達は小指を引っ掛け合った。


「た、田中もなんかさっきはごめん」

「俺達のことを考えての判断だったんだろ?

まぁ全員が互いの心配をしているうちは大丈夫だな」

田中君は、嬉しそうに私達は見ている。


「それで、ピストルを持った人間に心当たりはあるのか?」

「一つだけ……

ストーカーされる数日前なんだけど……」

南が話す内容に、私は耳を疑った。


カラオケ店で、怖い見た目の男性にナンパされたというのだ。

そのナンパ相手を南はヒールで蹴り逃げてきたらしい。

たったこれだけの理由で、相手は女子高校生にピストルを向けようとしているのだ。


「恐らくヒールで蹴った人間が、部下に前田を捕まえることを命じたんだろう」

「それってつまり、ストーカーをしている人間を捕まえても問題は解決しないということだよね?」

「そうなるな。理想は部下を動かしている人間の確保だ」

ここにきてさらに大きな問題が発生した。

けど私はもう迷わない。

「それでこかれから私達はどうすればいいの?

「明日話す。今日はもう疲れているんだから寝たほうがいいぞ」

田中君の言う通り、私と南はソファーでグッタリとしていた。

「朝になったら起こしてやるよ」


私と南は目を瞑り、休むことにした。


気がつけば朝だ。

私達は、学校に行くための支度をすると、田中君が私達にプランを話す。


田中君は、今まで通り尾行することを私達に伝えた、

ただし、南の安全を確保することができたら、そのあと二人組を尾行するというのだ。

二人組を動かしている人間の居場所を特定することができたら、一気に事件を解決することができるという考えだ。


私と南は頷いた。


早朝に私達は外に出た。

辺りには誰にもいない。本当に静かだ。

今まで通り、南との距離を開けているそのときだった。


私の目の前をもの凄いスピードでハイエースが突っ走る。

「前田、俺達も車に入るから時間を作れ」

田中君が南を指示をしたと同時、私の手を強く引っ張った。


南の横にハイエースがピタリとつくと、覆面を被った人間が車から出てきた。

人数は4人だ。

私と田中君が行って、どうにかなるのだろうか?

私は自分でも驚くぐらい冷静だった。


ここで3人全員がやられることが一番最悪の展開だ。

車の向かう先さえ分かることができれば、きっと南を助けることはできるだろう。

田中君ならば、きっと助けてくれるはずだ。

私は、掴まれた手を強く後ろに引っ張った。


「私が位置を知らせるから、後からついてきて」

「気をつけてください」

「ルーこそ気をつけてね。信じてるから」

私は田中君に言葉を残し、ハイエースの中になんとか入ることができた。


ハイエースの中には覆面の人間が5人いた。

南は、奥の席で縛られ、目と口が塞がれている。

「誰だてめぇ~」

私は胸ぐらを捕まれ、奥の席に座らされた。

「友達だけど」

男性はニヤリと笑いながら私のことをジッと見る。


「勇敢な友達だな。まぁ一緒に来てもらうわなぁ。

おい、コイツの鞄からスマホを取り出して、電源を切っておけ」

「外に放り投げますか?」

「誰かに拾われたら面倒だ。

コイツラと一緒に処分したらいいだろう。鞄をこっちによこせ」


男性は鞄からビデオカメラを取り出し、私の額にピストルを突きつけた。


「おいこのビデオカメラはなんだ?」
























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