第5話:予期せぬ展開

 尾行を開始してから、もう3日が経過した。

 私達は今、南が働いている喫茶店で待機をしている。

 私が思っている以上に、尾行は地味な作業だ。

「本当に喫茶店で待機していて大丈夫なの?」

「尾行なんてこんなもんですよ。休めるときに休んでおきましょう」

 そう言い田中君は、コーヒーを飲んでいる。


 南の勤務時間が終わると、200メートルほど離れ尾行をする。

 そして、南が自宅に入るのを確認して尾行は終了だ。


 今日で尾行も4日目になる。

 私は校門で誰かと待ち合わせをしているフリをしていると、南が私を横切る。

 それから200メートルほど距離が取れたら、南から連絡が来る。

 連絡が来たら、私と田中君が南の尾行を開始するのだ。

 最初は不安だったが、ビデオカメラがあれば、200メートル離れていても問題なく尾行は行えた。


 いつものように尾行を行っていると、田中君が唇に人差し指を当て私の方を向いた。

「前田聞こえてる場合、一度咳込め」

 南は咳き込んだ。

「自宅を通り過ぎて、バイト先に向え。

 念の為言っておくが、後ろは振り向くな。俺達が後ろにいるから、前だけ見て喫茶店まで歩き続けろ。喫茶店に入ったらメニューを頼んで待機しろ」

 要件を伝えると、田中君は私の手を握り、歩き続けた。

 恐らく、ストーカーを見つけることができたのだろう。


 100メートルほど速歩きをしたところで、イヤホン越しに南の声が聞こえてきた。

「すいません。ミルクティーお願いします」

 南の声が聞こえると、田中君の足が止まり、態度が豹変した。


「なぁ結衣。もうすぐ見える喫茶店のパフェの写真だぞ。美味しそうだから寄ってみないか」

 私は戸惑いながらもスマホを覗くと、メモ帳アプリに文字が打ち込まれていた。

 メモ帳には箇条書きでこう書かれている。


 ・3分ほど時間を稼いでから喫茶店に入ること

 ・カップルを装った会話をすること

 ・喫茶店に入ったら慣れなれしく前田に声を掛けること


 状況を掴めない私は、とにかく田中君の指示に合わせることにした。


「もう少し周辺にあるお店を調べようよ。亮太は何か食べたいものとかあるの?」

 これで大丈夫なのだろうか……

「俺はマジで何でもいいよ。結衣は何か食べたいものとかあるか?」

「私は何でもいいよ。この前も私が選んだんだから、今度は亮太が選んでよ」

「仕方ないな。調べるからちょっと待ってね」

 田中君はスマホで調べごとをしている振りをしている。


「決まった。やっぱりパフェが美味しそうだから、この喫茶にしよう。

 それより知っているか結衣。パフェとサンデーの明確な違いは、作られた国にあるみたいなんだよ」

 田中君の雑学を聞きながら、私達は喫茶店に入った。


 南の姿を見つけた私は声を掛けた。

「あっ南じゃん!」

「おっ前田ちゃんじゃん。結衣の友達なんだし3人で喋ろうぜ」

南は、状況を察して私達の演技に乗ってきた。

「いいよ。何か注文する?」

「私はレモンティー。亮太は何にする?」

「俺はアイスコーヒーとパフェにする」

 店員からメニューが届くと、田中君は美味しそうにパフェを食べている。


「本当にパフェは美味しいね。前田ちゃんはここの喫茶店によく来るの?」

「よく来るね?というか私のバイト先だし」

「嘘でしょ。金髪でピアスしている人間が働けるような場所じゃないでしょ。

 周りをよく見てみろよ」

 南を周りを見渡した。

「南に失礼だよ。亮太が失礼してごめんね」

「失礼ではないだろ。もし本当に働いているなら、メニューをいえば、値段を当てることができるよな?」

 そういい、田中君がメニュー表を手にとった。


「メニューを俺が今まで通りの声で喋ったら、少し考えてから答えを言え

絶対に周りを見渡すな。この声には二人共反応をするなよ」

 田中君の喉を締めて放った声を何とか聞き取ることが聞こえてきた。


「それじゃあ、モンブランとアイスコーヒーを注文したときの値段を答えてみてよ」

 南が腕を組むと、また田中君の声がうっすらと聞こえてきた。


「俺達の少し後に喫茶店に入った人間がストーカーだ。

 さっき前田が喫茶店を見渡したときに、黒の帽子を被った奴と顔が濃くて大人びた見た目をしている奴を確認できたか?確認できた場合、739円と答えろ」

 南は739円と答えた。

「凄いじゃん!正解だよ。けど、たまたまかも知れないから、最後にもう一問だけ問題をだすね。

 パフェとミルクティーとアイスコーヒーとレモンティーを注文したときの値段を教えてよ」


 問題を出すと、田中君の声がまたうっすらと聞こえてきた。

「二人とも今日は俺の自宅に泊まってほしい。細かな話は俺の自宅ですることにする

 お前が分からないと言えば、店を出るぞ」

「計算するのが面倒くさいよ。もう分からないでいいよ」

「答えは会計をしたときに分かるぞ。それじゃあ答え合わせといこうか」

 そう言い田中君が席を立つ。

 田中君に続き私達も席を立ち、会計を済ました。


 店を出ると、田中君はニコニコしながら、パフェの作り方を南に聞き始めた。

 南がパフェの作り方を説明しながら歩いていると、田中君がマンションを指差した。

「ここが俺のマンションだよ。まぁ気軽に遊んでよ」


 エントランスのオートロックを解除し、私達はエレベーターの中に入る。

 エレベーターの中に入ると、田中君が最上階である15階のボタンを押してから、開くボタンを数秒押し、扉を閉めた。

 最上階である15階についたが、田中君はエレベーターを出ない。再び、11階のボタンを押すと、田中君が喋りだした。

「俺の部屋は11階だ。ストーカーがエレベーターに入ってくるのか試してみた」

「喫茶店を出てからも後ろにいたの?」

「詳しい話は部屋に入ってからだ」

 南と私は頷いた。


 田中君の部屋に入ると、南が喋り出す。

「それで、喫茶店を出てからも後ろにいたの?」

「恐らくいたがハッキリとは分からない。まぁここにいたら安心だろう」

「マンションを特定されたら、田中もやばいんじゃあないの?」

「エントランスがオートロックだから問題はない。エレベーターの前に来ていない以上、俺の階を特定することは不可能だ。」


 田中君が、開くボタンを押していた理由が要約理解できた。けど、一つ気になる点があったのだ。


「もしもあのとき、エレベータの中に犯人が入ってきてたらどうするつもりだったの?」

「エレベーターには防犯カメラがあるんだ。奴らは、15階でエレベーターから降りるんだから、それからボタンを押せば問題はないだろ」

「15階でストーカー達が降りた後に、11階のボタンを押していたら、田中の自宅は特定されていたよね」

南の意見はごもっともだ。

エレベーターに入られた瞬間、私達は詰んでいたかもしれない。


「ここからが重要な話だ。

 まず、前田の質問だが、奴らを15階でエレベーターから降ろすことができたら、俺達は階を間違いたフリをしてエレベーターに乗り続けた。

 それから1階を押す予定だった」

「理由は?」

 南が質問をする?

「マンションの外に出て逃げるためだ。

 1階で降りた後に、エレベーターの全ボタンを押せば、巻くことは十分にできるだろ」

 ここまで捕まえることを目的に私達は行動していた。だから、田中君の逃げるためという言葉は、正直予想外だった。


「いいよ。私の質問はこれで全部だから。

重要な話をしてよ」

南の一声に田中君が口を開く。


「奴らは、ただのストーカーではない。

 前田のことを殺すために、尾行をしている」



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