第4話:尾行を開始します
南が部室に戻ってくると、田中君の方を向き話し始めた。
「これでいい訳?」
南は、生徒手帳を田中君に手渡した。
「後はコピーをすれば問題はない。それでは本題に入るが、ストーカー相手に心当たりはあるのか?」
「正直いってないね。ストーカーの姿を見れば何か思い出すかもしれないけど……」
「犯人が分からない以上、いきなり捕まえる方向で話を進めるのは危険だな。
まずは、犯人の特定をする方向で進めよう」
「犯人の特定はどうやってやるつもりなの?」
「地味だが、俺達も前田さんのことを尾行するしかないだろう。万が一のことがあったときにも、対処することができるからな」
覚悟はしていたが、ここまで本格的に行動することになるとは思わなかった。
尾行がバレたら全てが終わりだ。
「尾行って私達で大丈夫なの?尾行に必要な機材も見当たらないけど……」
「今から揃えれば問題ない。綾瀬さんと前田さんは、イヤホンを持っているか?」
「持っているよ」
私は、田中君にBluetoothイヤホンを見せた。
「へぇ~結衣はBluetoothイヤホン使っているんだ。私は有線イヤホンだけど、イヤホンがどうかしたの?」
「尾行は、Bluetoothイヤホンですることにする。前田さんは、これから出かける予定は?」
「犯人が分かるまでは、自宅にいる予定だね」
「分かった。今日はこれで解散しよう。前田さんの自宅までは、俺達もついていく」
部室を出て、私達は職員室に向かう。
「なんか悪いね。ここまで協力して貰えるとは考えていなかった」
「やるからには、徹底的にやった方がいいだろう。
互いに後悔はしないように行動しよう。綾瀬さんもそう思うだろ?」
「うん。絶対に犯人を捕まえようね。南」
「あ、ありがとう。けど結衣は無理をしないでね」
南は、後頭部を触りながら、私に礼を言う。
私も誤解していたけど、南は思っているほど怖い人間ではないのだろう。
必ず今回の依頼を成功させて、南と楽しい学校生活を楽しみたい。
私は、改めて今回の依頼を成功させたいと決意した。
職員室に入り、部室の鍵を返しに行くと、篠宮先生が嬉しそうにしながらこちらにやってくる。
「初めての依頼者が前田とは驚きだ。依頼内容は先生にも教えてくれるのかい?」
3年生の担任をしている篠宮先生と南に接点があるのに驚いた。
話しがややこしくなる前に、なんとか話を変えないとマズイ……
「前田さんは、部活見学に来ただけです。なぁ前田さん?」
田中君は、篠宮先生に嘘をついた。
ストーカーの依頼を引き受けたといえば、騒ぎになるからだろう。
「そうだね。私も部活始めようかと思ってさ」
「そうだったのかい。まぁ前田は、部活動をした方がいいだろうな。
入部する気になれば、また、先生に教えてくれ」
篠宮先生に鍵を返し、南を自宅まで送ることにした。
「下校中にストーカーされたことはあるのか?」
「あるよ。けど友達といるときに気配を感じたことはないかな」
「犯人が捕まるまでは、こうして一緒に帰ろうね」
「ありがとう。下校だけじゃなくて、教室でも喋りかけてよ。結衣いつもすぐいなくなるからさ」
私は、嬉しくなり南に抱きついた。
「ちょっと結衣。そういうの教室では絶対やめてね」
私達が楽しそうにしていると、田中君が口を開く。
「この問題を解決したら、ボランティア部に入ればいいんじゃないか?」
「本当だね。3人の方が解決できる問題も増えると思うし」
「考えておくよ。もう私の自宅だから。明日からもよろしく」
「うん。明日から頑張ろうね」
私は手を振り、南を見送る。
南が自宅に入るところを確認すると、田中君が口を開く
「それでは、家電量販店にいきましょうか」
「南も誘えば良かったのに……」
「彼女とビデオカメラを買っているところをストーカーに見られたら、問題ですからね。
ここは、私とジェシカ様で行動することが安全でしょう」
私と二人きりになった瞬間、田中君の喋り方や雰囲気はガラッと変わった。
南との距離も縮めたいが、田中君が何を考えているのかも私は知りたい。
二人きりのときは、田中君の世界観に合わせることにした。
私達は、家電量販店に入り、ビデオカメラを見ることにした。
ビデオカメラの値段は、本当にピンきりだ。
「一台はこれにしましょう。機能もいいですし、ジェシカ様はこれを使ってください」
田中君が手にとったビデオカメラの値段を見て驚いた。
「待ってルーズベルト。9万8000円もするよ」
「今後のことを考えたら問題はないでしょう。GPS機能もあるので安心です」
「それはそうだけどさ……高いから操作も大変だと思うよ」
「私が教えるので問題ありません。ジェシカ様が今からすることは護衛です。
値段で護衛の道具を選ぶことは、控えるようにしましょう」
ごもっともな意見だ。
高いからや操作方法の心配をしてで購入を躊躇していた自分が恥ずかしい。
「使いこなせるように頑張るね。ルーズベルトは、どのビデオカメラにするの?」
「私はこれにします。軽くて画質も綺麗ですからね」
田中君が手に持っていたのは、とてもシンプルなビデオカメラだ。
値段も私のと比べたら3分1しかしない。
「ルーズベルトこそ性能が高いビデオカメラを使った方がいいんじゃないかな?」
「問題ありません。彼女のBluetoothイヤホンを探しにいきましょう」
Bluetoothイヤホンは、再生可能時間が長いものが選ばれた。保管ケース自体が充電器の役割を果たす、なかなか良いイヤホンだ。
田中君は、商品の番号札を手に取り、レジに向かう。
「部費じゃないよね?私もお金は出すよ」
「気持ちだけ受け取っておきます。これから無給で尾行を協力してもらうのに比べれば、安い買い物です」
買い物が終わり、私の自宅前で解散する。
「使い方が分からない場合、連絡をしてください」
田中君がビデオカメラを手渡してきた。
「頑張るね。本当に色々とありがとう」
私は自宅でビデオカメラを操作する。
ビデオカメラは、遠くの対象も細かく見ることができ、何をしなくても綺麗な映像が撮れそうだ。
尾行は基本的にカメラを回しながら行うらしい。カメラを鞄に仕込んだりするイメージがある尾行だが、田中君曰く堂々と撮影してもバレないみたいだ。
とにかく明日から本格的に尾行が開始する。私はビデオカメラを充電し、布団に入る。
気づけば朝になっていた。
私は学校に向かう準備を済まし、南の家に向かう。
「おはよう南。昨日はあれから大丈夫だった?」
「おかげさまで。それより、あれから色々準備はできたの?」
「機材は揃えることができたよ。また部室で詳しく話をするね」
「田中もいた方がいいからね。まぁ今日からよろしく」
南が私の背中を軽く叩き学校に向った。
休み時間も食事時間も南と一緒に過ごすことができた。
全ての問題が解決すれば、心配事をすることなく楽しい毎日を過ごすことができる。
私は南と学校生活を共にし、今回の依頼を解決したいという気持ちがさらに強くなった。
放課後のチャイムがなり、私達が部室に向かうことにした。
部室に入ると、田中君がはパソコンを操作している。
「今日からビデオカメラで前田さんのことを撮影するけど問題ないな」
「問題ないよ。後、田中も前田でいいよ。けど、本当にビデオカメラだけで大丈夫?」
「前田これを見てみろ」
そういい田中君は、私達にパソコンの画面を向けた。
パソコンの画面には、私と南が登校しているときの映像が流れている。
「綺麗に撮れてるじゃん。結衣は撮影されていること気づいてたの?」
「た、たしかに綺麗だね。私も全く気づかなかったよ」
確かにもの凄く綺麗に撮れている。けど、盗撮のクオリティーを褒めていいのだろうか?
「俺達が最善を尽くせば、犯人を捕まえることはできるだろう。
前田にも指示をすることがあるかもしれないから、これをつけておくようにしてくれ」
田中君は、南にBluetoothイヤホンを手渡した。
「ありがとう。結衣も田中も無理はしないでね」
「前田が一番危険なんだ。何があったとしても最後まで諦めるな
」
南は田中君の言葉に頷いた。
「行こう。それと南……事件が解決したらボランティア部に入ってね」
「絶対に入るよ。結衣も怪我には気をつけて」
ボランティア部、初めての依頼が本格的に始動した。
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