第2話:部活を立ち上げます

私の学校から虐めをなくしたいという言葉に田中君は感動している。

「それで、ジェシカ様は、どのように虐めを無くしていくつもりでしょうか?」

正直全く考えていなかった。

虐めを無くす方法があるのであれば、私が知りたいぐらいだ。


「ルーズベルトは、何か考えがあるの?」

「そうですね。まずは、ジェシカ様がクラスメイトと仲良くすることが最優先だと思います」

その通りだ。

けど、虐めが簡単に終われば苦労しない。

難しい話になりそうな予感がし、私は話を反らすことにした。


「とりあえず学校を案内するね。それからゆっくり話そうよ」

「確かにまだ私もジェシカ様も1年生ですからね。これからゆっくり考えましょう。」


私の頭は校舎の案内どころではなかった。

田中君が口にしたジェシカ様という言葉が気になって仕方ないのだ。

私には、田中君の世界観が分からない。


しばらく歩いていると、田中君が立ち止まる。


「ジェシカ様。この教室は空き部屋なのでしょうか?」

「確か昔弁論部が使っていた教室だね。どうかしたの?」

「この教室を私達の拠点にしましょう。学校から争いをなくすとなれば、拠点は必ず必要です。私とジェシカ様で何か部活を立ち上げましょう」


学校と自宅を往復しているだけの私に、反論の余地はなかった。


「それはいいね。ルーズベルトは、中学校のとき何か部活をしていたの?」

「ジェシカ様と出会う前から忙しかったので、義務教育は受けていません」

「そうなんだ。ルーズベルトは何か得意なこととかあるの?」

「ジェシカ様と共にいたときと変わらず、私は護衛や戦闘が得意ですよ」

「そ、そうなんだ」

やっぱり田中君は普通ではない。


一通り校舎の案内が終わり、私と田中君は教室に戻り、1限目の授業を受けた。

今日の学校はとても平和だ。

みんなが田中君の元に集まってることで、私は虐められることなく放課後を迎えた。


学校が終わり、私と田中君は弁論部が使っていた教室の前で交流した。

「ジェシカ様。それでは部活の申請をしにいきましょう」

「ちょっと待って。部活を作って何をするのか考えないと申請が通らないかも知れないよ」

「問題ありません。建前は、ボランティア部ということにすれば問題ないでしょう」


そう言い切り、私と田中君は職員室に向った。


「失礼します。1年1組の綾瀬結衣です。」

「奥にいる女性の先生に部活動の申請の話を振ってください」

小さな声で田中君は、私に指示をする。

私は田中君の指示通り、奥にいる篠宮しのみや先生に声を掛けることにした。


「あの、篠宮先生。少しいいですか」

「一年生が私になんのようだい。外で待っときなさい」


私と田中君は職員室から出て、篠宮先生を待つことにした。

「ルーズベルト、どうして篠宮先生に声をかけるように指示したの?」

「一番話を聞いてくれそうだったからです。現に私達のために、時間を取ってくれているので、上手くいくでしょう」

「そうだったんだ。後言い忘れていたけど、私は他の誰かにジェシカであることがバレてはいけないの。だから篠宮先生の前では、気をつけてね」

「そうだったんですか。任せてください」

本当に田中君は賢いのか、頭が悪いのか良くわからない。


私達がしばらく職員室の外で待っていると、篠宮先生の姿が見えた。

「綾瀬さんだね。私に用事があるみたいだけど、どうしたんだい?」

「初めまして田中です。実は綾瀬さんと部活動を始めたくて顧問を探しているんです」

田中君は話に割り込むような形で入ってきた。

篠宮先生と話している姿だけみると、田中君は、愛想の良い優等生だ。


「それで私に声を掛けたのか。一体どんな部活動をする予定なんだ?」

「ボランティア部です。ホームページを立ち上げて、地域のために活動をする予定です」

「それはいいね。じゃ申請用紙を持ってくるから、ちょっと待ってて」


篠宮先生は、申請用紙を取りに、職員室に戻った。


「ちょっと待って。ホームページなんてどうやって立ち上げるつもりなの?」

「私に任せてください。パソコンがあれば簡単に作ることができますよ」

田中君がどこまで本気なのか分からない。

けど、部活を立ち上げること自体は、とても楽しみだ。


「ほら。申請用紙をとってきてやったぞ」

篠宮先生が、申請用紙を手渡してきた。


「君たちの場合は、部長と副部長を決めるだけだ。

後は、私がやっておくさ」

「綾瀬さんが部長で副部長は田中でお願いします。

教室は、弁論部が使っていた場所を使いたいのですが、大丈夫ですか?」

「空いている教室があそこしかないからな。

これが弁論部が使っていた教室の鍵だ。また何かあったら言ってくれ」

篠宮先生は、手を振りながら職員室に戻っていった。


「なんだかあっさり決まったけど……私が部長で大丈夫なの?」

「問題ありません。元々はジェシカ様のやりたかったことですから」


確かに言ったけれど、一日で部活を立ち上げることになるとは思わなかった。

田中君が何者なのか本当に分からない。


「それでは、部室の状態を見に行きましょう。

部屋の掃除をして、明日から活動をしていきたいですからね」

「分かった」


部室に入ると、空き部屋だったこともあり少しホコリや汚れが溜まっている。


「今日中に片付けが終わるかな?」

「これぐらいであれば、学校が終わるまでの3時間で片付けることができますよ」

田中君は、今日中に掃除を終わらせる気だ。

私達は下校のチャイムが鳴り終わるまでに何とか片付けをすることができた。


「後は、パソコンがあれば最低限、活動をすることができますね。

学校でパソコンを借りることは可能なんでしょうか?」

「確か借りることができると思うよ。帰りに篠宮先生に聞いてみようよ」


こうして私達は、無事ボランティア部を立ち上げることに成功した。




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