ボランティア部が引き受けます
@cloverzzz
第1話:転校生がやってきました
私は、幼い頃の記憶がない。
だから、人とコミュニケーションを取ることが苦手だ。
今日もいつものようにトイレでサンドイッチを食べていると、笑い声と同時に大量の水が降ってきた。
「本当に
「ちょっと可愛いからって男子にチヤホヤされて、マジでウザいんだけど」
「ホント、男子にだけは好かれてるよね」
私は、黙々とサンドイッチを食べ続ける。
ジッとしていれば、いつか終わることを知っているからだ。
サンドイッチを食べ終わる頃には、トイレも静かになっている。
こんな生活を3年間も続けるのは正直地獄だ。
学校が終わると、一人暮らしをしているアパートに帰宅する。
やることを済ませ、趣味である読書をして布団に入る。
布団に入れば、朝がやってくる。
寝ることは好きだけど、朝になるのは好きじゃない。
学校に行くのは憂鬱だ。学校に近づく連れ、足が鉛のように重くなる。
教室に入ると、私は違和感に気付いた。
いつものように嫌がらせをされることなく、私は席につくことができたのだ。
「みなさ~ん今日来る転校生は、男子という情報を入手しました」
どうやら今日は転校生が来るらしい。
クラスメイトが互いに入手した情報を交換している。
私は、転校生が男性という声を聴き安心した。
これで虐めがエスカレートすることはないだろう。
しばらくすると、チャイムが鳴りホームルームが始まる。
教室に入る先生の後ろには、一人の男性がついて歩く。
黒く短髪な見た目をして、制服を校則通りきっちりと着こなしている。
それ以上見た目に特徴はない。街で会っても、素通りしてしまうほど特徴のない見た目だ。
「ちょーカッコいいじゃん」
「芸能人みたいじゃない」
「後で彼女いるのか聞いてみようよ」
嘘だ。
どうやら男性はとてもカッコいい見た目をしているようだ。
「
田中という名字といい、私からすれば、全く特徴のない男性だ。
まぁクラスメイトと仲良くしそうな雰囲気があるし、私と3年間は無縁な人間だろう。
「今日の日直は、綾瀬だな。
ホームルームが終わったら、時間をあげるから校舎を案内してあげなさい」
クラスメイトの冷たい視線を感じながら、私は渋々頷いた。
ホームルームが終わると、田中君がこちらの席に向ってくる。
「それでは行きましょうか?」
田中君は、私に手を差し出した。
紳士的な素晴らしい態度ではあるが、差し出した手を握れば虐めは悪化するだろう。
私は差し出された手を無視して、立ち上がる。
「ありがとう。それじゃ教室を案内するね」
私と田中くんは教室を出た。
教室を出ると、田中くんが私に問いかける。
「ジェシカ様。一つ聞いておきたいことがあるですが……教室を出る際、ジェシカ様を睨んでいた女性は何者なのでしょうか?」
私は混乱した。
「私の名前は、
「今は、私とジェシカ様の二人きりなので、いつも通りルーズベルトと呼んで問題ありません。それよりも、先程のジェシカ様に対して偉そうな態度を取っていた女性は誰でしょうか?」
私の頭は混乱している。
私の名前はジェシカではなく、綾瀬結衣だ。
いくら幼い頃の記憶がないからといって、ルーズベルトやジェシカのような、別世界の人間ではないは知っている
「なるほど。ジェシカ様は気付いてないみたいですね。
教室にいた女性はジェシカ様に敵意をむき出していました。何かされる前に始末しておきましょう」
私は目を疑った。
田中君の懐のポケットから拳銃が出てきたのだ。
モデルガンだろうか?仮にモデルガンだったとしても、転校生が拳銃を出せば、混乱は間違いない。
それに田中君は、恐らく厨二病だ。
私は田中君の世界観に合わせてコミュニケーションを取ることにした。
「ルーズベルト。学校には虐められ自殺してしまう人間もいるの。
私はみんなに高校3年間を楽しく暮らして欲しい。だから私がみんなの代わりに虐められる道を選んだんだよ」
「さすがジェシカ様です。
ジェシカ様は、自らを犠牲にしてでも虐めをなくしたいんですね」
「そうなんだよ。誰も虐められてることがない学校があれば、楽しいと思わない?」
「ジェシカ様が望む世界は、楽しいに決まっています」
田中君は膝をつき涙している。
「ルーズベルト・フォンが必ずこの学校を平和で争いのない場所にしてみせます」
どうやら私の高校生活は、今まで以上に忙しくなりそうだ。
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