第7話 イバラとアリス

 イバラは執拗にアリスの影につきまとった。

「アリス、美術部やめたんだってな」

「やめてはいないよ・・・」

「行ってねーんだろ。やめたようなものじゃん。カラオケ行こーぜ、おれと。どうせひまなんだろ」

「時間はあるけど、歌とか苦手・・・」

「時間あるなら来い」

 イバラは強引だった。

「中山さんこそ、時間あるの? ソフトボール部に行かなくちゃ」

「いいんだよ、おれの部活なんて。テキトーにやってりゃいいんだ。あと、中山さんて呼ぶな」

「じゃあ、なんて呼べばいいの?」

「イバラ様」

「イ、イバラ様?」

「それでいい」

 イバラは傲岸と反り返って、アリスの影を見下ろしていた。

 彼女はアリスの影の手を握り、カラオケに引っ張って行った。

「何か歌えよ」

「だから、歌とか苦手で・・・」

「おまえ、アニソンとか知ってそうだよな。アニソンでいいから歌えよ」

 アニソンならよく知っていた。仕方なく好きなアニメのオープニングを選曲し、歌った。よく知ってはいるからなんとか歌えたが、歌い慣れていないので、うまくはなかった。

「おまえ音痴だなー」

 イバラはゲラゲラ笑った。自分はアイドルグループの曲を入れ、上手に歌った。

「次行け、次」とイバラは言った。

 アリスの影はもう歌いたくなかった。帰っちゃえばいいのに、とアリスは思った。でも影は帰ることもできず、イバラに長々とつきあわされた。アニソンを十曲以上歌った。アリスの影はすごく疲れて帰宅した。イバラ様か、とアリスは思った。マリモちゃんより性格悪い。

 アリスの影につきまとったのは、イバラだけではなかった。

 庄田陽炎というちょっと強面で、剣道部に所属している男子が、じっとアリスの影を見つめていた。

 影とイバラが一緒に昼食を食べているとき、割り込んできた。

「俺も一緒に食う」

 アリスの影とイバラの返事も聞かずに、弁当を広げ、食べ始めた。

「おめー、邪魔だよ」とイバラが言っても無視した。

「アリスの弁当、うまそうだな」と陽炎は言い、卵焼きを断りもなく勝手に取った。アリスの影はさすがに嫌な顔をしたが、何も言えなかった。不知火と似てるけど、もっと嫌な人だな、とアリスは思った。

「おめー、勝手に食ってんじゃねーよ」とイバラが言った。

「おまえ、うるさい。どっか行け」

「おめーが行け。勝手に入って来て、なんだその言い草は」

 イバラと陽炎は険悪になった。アリスの影はいたたまれない思いをした。でも何も言えない。これじゃあだめなんだ、とアリスは思った。もし元の世界に戻れたら、ボクは変わらなきゃ。言いたいことを言えるように。

 イバラと陽炎に絡まれるのが、影の日常となった。

 陽炎はアリスの影の肩を抱いたり、髪を撫でたりした。不知火より遥かにタッチする回数が多かった。影は陽炎が怖くて、拒否できなかった。いつもうつむいて、されるがままになっていた。

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